新進気鋭の韓国ミュージックを国内に紹介するレーベル〈Bside〉。韓国音楽シーンを盛り上げているアーティストの既発曲からセレクトし、バイナルカットするプロジェクト「Bside K-Indies Series」の第8弾が8月24日(水)にリリースされた。今回は「釜山特集」として、Say Sue Me(セイスーミー/세이수미)、Bosudong Cooler(ボスドンクーラー/보수동쿨러)、Hathaw9y(ハサウェイ/해서웨이)の3アーティストをピックアップ。
BUZZY ROOTSでは、リリースを記念し、3アーティストのインタビュー記事を公開していく。
2020年に結成・デビューし、間もなくしてNAVERのライブプラットフォーム《ON STAGE》や音楽ストリーミングサービス・FLOが企画するYouTubeライブ「FLO Studio」といった動画コンテンツに次々と出演。それらをきっかけに、今、国内外や年齢層を問わず着実にファンの裾野を広げている新進気鋭のバンド・Hathaw9y。
交差する男女ボーカルとキャッチーなメロディー、そして無駄がなく洗練された楽器編成と曲構成全てが聴き手を陶酔させロマンを感じさせる。
釜山出身の彼らは、デビュー後も変わらず地元を拠点にソウルと行き来しながら活動中。オンラインを通してどこからでも発信・交流が出来る現代において、「上京」が絶対ではない感覚は浸透しつつあるが、慣れ親しんだ土地・仲間と一緒に創作活動に夢中になれる環境は、Hathaw9yの音楽の欠かせない要素となっているようだ。
そんなHathaw9yにメールインタビューを敢行。70~80年代の音楽に影響を受けたという音楽ルーツから結成の経緯、そして活動拠点である釜山の音楽シーンについて語ってもらったほか、「Scribble」 「Hayley」のレコード発売に関し、各曲の制作秘話と日本発売を経ての現在の心境について訊いた。
Donny Hathawayとの出会い、そしてHathaw9y結成へ
ー読者の皆さんへご挨拶をお願いいたします。
カン・キウィ(以下キウィ):こんにちは、読者のみなさん!!! Hathaw9yのギター/ボーカルを担当しているカン・キウィです。お会いできて嬉しいです〜〜!!!
チェ・セヨ(以下セヨ):こんにちは。Hathaw9yでドラムを担当しているチェ・セヨです。
イ・トゥクミン(以下トゥクミン):こんにちは。トゥクミンです。
ーDonny Hathawayから名付けられたバンド名とのことですが、皆さんが彼に出会ったきっかけは何だったのでしょうか?
キウィ:元々セヨと私は70~80年代の音楽が大好きでよくシェアしてたのですが、Donny Hathawayもセヨのおすすめを通じて出会い、好きになりました。
セヨ:子どもの頃、とあるプレイリストを見つけて聴いたのですが、それが「死ぬ前に絶対聴くべきポップス」というタイトルだったんです。その中である歌にハマったのですが、それがDonny Hathawayで、それから好きになってしまいました。
トゥクミン:私はバンドの名前を決める時に初めて知りました。
ー現在の編成は、どのようにして決まったのでしょうか?
キウィ:元々は私とセヨの2人でバンドをやろうかなと思ってました。そのうちに、トゥクミンに出会って私たちのとこに連れて来たいと思い、迎えることになりました。実は最初はトゥクミンに「ベースだけやってもらえれば…」と言ってたのですが、それとなく歌をお願いしてみたらあまりにも上手いので、そのままボーカルもお願いし、現在の編成になりました。
セヨ・トゥクミン:そうなんです。
「『かわいい』という修飾語を付けようと思います」ーーHathaw9yの音楽的感覚
ー音楽制作についてお伺いします。テーマの構想から作詞曲・アレンジまでは、全員で一緒に進めるのでしょうか?
キウィ:そうです! 作詞曲と編曲はセヨと一緒にすることが多いのですが、トゥクミンはテーマ構成において重要な役割を行ってくれます。
セヨ・トゥクミン:そうなんです。
ー普段、どのようなことから曲のインスピレーションを受けますか?
キウィ:結成当初はコロナ禍で家で過ごす時間が多かったのですが、今思うと一人で家で思い耽ったり、SNSを通じて接するニュースが主な素材だったようです。だけど考えてみると、自由に出かけられるようになった今も特に変わったことはないですね!!
セヨ:日々過ごす中で思ったことですね。元々考え事が多いタイプで、そういうことが浮かんでくる度にメモ帳に書いておいて、保存しておきます。
トゥクミン:私は特にないですね。
ー音楽または歌詞、どちらから作り始めることが多いですか?
キウィ:私はほぼ毎回作曲から始めるタイプです。そして作詞においては、いつもかなりの負担を感じていて、セヨに頼っています。なので、ある程度曲を作ったらセヨに送って作詞をお願いしている感じです。
セヨ:えっと…そんな感じです。
トゥクミン:そうです。
ーHathaw9yの楽曲の抒情的なメロディーラインに魅了されます。フレーズは作曲のどのタイミングで浮かんでくることが多いですか?
キウィ:私はギターリフまたはベースラインが作曲の中心になる場合が多くて、ドラムやギター、ベースで4節または8節ぐらいの短いフレーズを先に作って、それを土台に曲を作っていく感じです。突然フレーズが浮かんで録音することは珍しく、ドラムのリズムを流したまま、何時間か座っていくつかの過程を経て浮かんでくることが多いですね。
セヨ:僕はそのように浮かんだフレーズを二次的にろ過する役割をしてます。ですが、本来のものを薄くしてしまうようなことはほぼ無いです。なぜなら全て良いんですよ。
トゥクミン:そうなんです。
ーこれまでメディアや評論家から「美しい」「無駄のない」…など様々な修飾語で紹介されてきましたが、活動から2年目の今、ご自身で修飾語をつけるとすると…?
キウィ:私たちの音楽に関する修飾語については今でも恥ずかしいとこがあって、誰かが付けてくれた時にただありがたい気持ちで受け取っています。どうしても私たちが自ら付けなければならない時は「ただ」Hathaw9yと言うか「かわいい」という修飾語を付けようと思います。
セヨ:私も同じ考えです。
トゥクミン:「かわいい」Hathaw9y、悪くないですね。
地元、そして活動拠点である釜山の音楽交差点
ー8月9日に、同じく釜山出身のBosudong Coolerと共作アルバム『LOVE SAND』をリリースしました。それに関し、Bosudong CoolerやSay Sue Meをはじめ、同郷のミュージシャンどうしの繋がりについて、また交流出来る拠点や機会(代表的なライブハウスやイベント)など、釜山の音楽シーンについてお聞かせください。
キウィ:実はBosudong Coolerと交流するようになった決定的なきっかけは、私とBosudong Coolerのスラン兄さんが同じ学校に通っていた親しい仲だったからと思います。それをきっかけに元々親しくしていて、Hathaw9yを始めてからはスラン兄さんのサポートでソウルの《Mushroom Recording Studio》にお世話になることになり、Say Sue Meと交流が出来てから今の私たちの人間関係が作られていったと思います。現在の釜山で最も重要な空間と言えば、Bosudong CoolerとSay Sue Meの制作場所がある「広安里」という街全体を挙げたいですね。
セヨ:釜山では何と言っても、「Ovantgarde」というライブハウスが最も中心になっていると思います。インディーズのライブが最も活発に行われている空間なので。
トゥクミン:そうです。
ーHathaw9yをはじめ、様々な釜山のインディーズミュージシャンのサポートをおこなっている「釜山音楽創作所」について、釜山のミュージシャンたちにとってどのような存在と言えるでしょうか?
キウィ:私たちも釜山音楽創作所を通して、デビューアルバムを制作することが出来ましたし、私たちのようにそのような機会を必要としているバンドには本当に重要でありがたい所だと思います。釜山音楽創作所のおかげで釜山で音楽をする環境がより良くなったことは確実にあると思います。制作費をサポートしてくれて、他の地域の主要音楽関係者と繋げてくれる点が最も大事なことだと思います。
セヨ・トゥクミン:そうです。
「Scribble」 「Hayley」レコード発売について
ーここからは、「Bside K-Indies Series」の収録曲に関して伺います。まずはA面の「Scribble」について、“ぼやけたろうそくの火”(희미해진 촛불)、“真っ黒に日焼けした壁紙”(새까맣게 그을린 벽지)、“空いてしまったコップ”(비어버린 잔들)という3つのフレーズが印象的ですが、そのフレーズが浮かんだ経緯が気になります。
キウィ:「Scribble」の歌詞が私も本当に好きなんですが、それについては作詞家のセヨに話していただきましょう。
セヨ:「Scribble」の歌詞を書く時、関係が終わる瞬間を書きたかったんです。その時に浮かんだいくつかの感情の一つが「放置された」だったんです。放置された感情を視覚的に表したくて書いた文章です。
トゥクミン:だそうです。
ー「Scribble」が収録されている2ndEP『Woo Scribbling Night』では、Say Sue Meからビョンギュさん、ソンワンさんが制作に参加されました。レコーディングのエピソードについてお聞かせください。
キウィ:デビューアルバムをソウルにある《Mushroom Recording Studio》で制作をした後で、次の『Woo Scribbling Night』の制作について悩んでいました。デビューアルバムはサポートをもらって制作しましたが、今回は自分たちで制作をしなければならない状況だったからです。その時《Mushroom Recording Studio》のチョン・ハクジュ監督からSay Sue Meのスタジオで録音をしてみないかと声をかけてくださって、ビョンギュさんが「録音ノウハウの伝授と休暇を兼ねて釜山に行くから、そこで制作作業を手伝ってあげるよ」と言ってくださったんです。おかげで、制作費を有意義に使うことが出来ましたし、ビョンギュさんとの仲を深めることが出来て、お互い力になった、そんな時間を一緒に過ごしました。その間、同じく釜山で活動するSoumbalgwangとBosudong Coolerもよく遊びに来てくれました。ソンワンさんもパーカッションの録音でたくさんの機材を持って来てくださり、録音に真剣に取り組んでくださいました。そういったことも釜山で行ったからこそ可能だったと思います。
セヨ:まずSay Sue Meというバンド自体が釜山で活動するバンドにとってはあまりにも大きな存在なので、初対面はものすごく緊張しました。ですが、心配とは裏腹に皆さんとても気さくで親切で、温かく接してくださいました。おかげで録音を進める過程は、穏やかに楽しく進めることが出来ました。ご飯に行く度にビョンギュさんのおすすめの食堂に行って、Say Sue Meの皆さんは実はすごい美食家なのかもと思いました。
トゥクミン:楽しかったですね。
ーB面の「Hayley」は、愛の束縛や執着といった単語を彷彿とさせるような内容となっていますが、このような内容は何からインスピレーションを受けたのでしょうか?
キウィ:「Hayley」の歌詞は私が書いたのですが、当時SNSで「私は良いけど、あなたはダメ」と言っている人々を見て私の過去の恋愛が浮かんだんです。それを思い出しながら書いた気がします。
セヨ:よく考えてみればそういう人が多いなと思います。もしかして私たちもそういう人になるかもしれないし気をつけないとですね。
トゥクミン:そうですね。
ー英語詞、韓国語詞両方での作詞を経験されていますが、詞の言語を使い分ける基準みたいなものはありますか?
キウィ:私たちの1stアルバムが3曲全て英詞で、少し恥ずかしいのですが、実は当時は本当にグローバルに成功したいという欲があってそのように書いたんです。ですが、その後はグローバルな成功というよりは自分をはじめ周囲の人々がもっと共感出来るよう曲を書きたいと思うようになりました。そして何より、英語が得意ではないのに書こうとするとちょっと大変になることもあって…また、セヨの歌詞の場合、ハングルで作るほうがもっと魅力的だという考えもありました。そうして以後は、ハングル詞の比重がより多くなりましたね。とにかく歌詞においても様々な試みを続けてみようと思っています。
セヨ:私はメロディーがどう出るかによって、歌詞をどうやって書くか考えます。英語で歌う時の感じと韓国語で歌う時の感じをイメージするんです。ですが、何と言っても英語は少し難しいですね。
トゥクミン:同意です。
ーこれまでリリースしてきた3アルバムのタイトルはどれも収録曲を繋げたタイトルとなっていますね。どのような意味があるのか気になります。
キウィ:初のEPのタイトル曲が不思議なほど、お互いに繋がりが良かったんですよね。当時、みんなそれに気づいて「あ、これだ!!」と思いついた気がします。以後は当たり前のようにそうやってタイトルを作るようになりました。単純に繋げてタイトルを付けるだけで新しい意味のタイトルになるのが本当に面白くてユニークだと思います。
セヨ:そうみたいですね?
トゥクミン:そうなんです。
「今まで通り3人で楽しくて面白い時間を過ごしたい」
ー今後の展望についてお聞かせください。
キウィ:はい! 今年はEPも一つ出しましたし、Bosudong Coolerとの制作もありましたし…既にすごく頑張って走り抜いたと思います。なので、残りの2022年は次回作と、今まで出した曲をまとめたCDを制作しながら過ごすと思います。もちろん真面目に様々なライブに名を連ねたいですし、いくつか新しい試みを盛り込んだ自主制作の単独ライブも欠かせないです。そして来年は新たな音楽をいっぱいに収めたフル・アルバムをリリース出来るようにする計画です。
セヨ:面白くしようと始めたことが今振り返ってみると、それがとても大きくなったようで不思議な感じがしますが、今まで通り3人で楽しくて面白い時間を過ごしたいです!
トゥクミン:私は練習してお金を稼いで仕事して…そうやって過ごします。
ー「Scribble」「Hayley」のレコードを手にした日本の方に向けて、メッセージをお願いします。
キウィ:こんにちは皆さん! レコードを購入いただいただけでなく、このインタビューを読んでくださっているということは、私たちに多くの関心を寄せてくださったということですよね? 私が大好きな日本からいただく関心だなんてとても嬉しくて幸せです。いつか絶対直接会ってありがとうと伝えたいのですが、インタビューでも感謝の気持ちを伝えられてとても嬉しいです。BUZZY ROOTSにもBsideにもファンの皆さんにも本当に感謝します♥
セヨ:音楽は地域と文化を越えるという言葉をいつも聞いてきましたが、皆さんのおかげで私たちの音楽もそのような音楽になった感じがして嬉しいです。いつか日本で生ビールを飲みながらお話をする日が来ると良いなと思います。ありがとうございます。その時会いましょう!
トゥクミン:今度日本でお会い出来たら嬉しいです。
協力・監修:Bside Label