新進気鋭の韓国ミュージックを国内に紹介するレーベル〈Bside〉。韓国音楽シーンを盛り上げているアーティストの既発曲からセレクトし、バイナルカットするプロジェクト「Bside K-Indies Series」の第7弾が7月20日(水)にリリースされた。今回は「夏に聴きたい爽やかなR&B特集」として、Samuel Seo、O3ohn、oceanfromtheblueの3アーティストをピックアップ。
BUZZY ROOTSでは、リリースを記念し、3アーティストのインタビュー記事を公開していく。
コントロールされた歌唱法と繊細で完成度の高いディテールの音楽で、韓国内外の同世代のリスナーやアーティストたちを虜にするヒップホップ・R&Bシーン屈指のマルチ・プレイヤー、Samuel Seo。
《韓国大衆音楽賞》《Korean Hiphop Awards》と著名なアワードでの受賞経験をもち、演奏から歌唱に至るまで、ジャンルや時代間の境界を越えた独自のセンスに多くの評価を得ている。
また、幼少期を日本やカナダで過ごした経験から、その堪能な語学力を生かし、海外アーティストとのコラボレーションも積極的に行っている。日本のリスナーにとっては、YonYonやTENDRE、そしてSKY-HIとのコラボレーションで彼の名を知った人も少なくないだろう。
そんなSamuel Seoにメールインタビューを敢行。近況や幼少期の話、また来日時の思い出、そして「Vulture (feat. DeAndre')」 「Dust」のレコード発売について現在の心境を訊いた。
Samuel Seoの現在地、そしてルーツ
ー読者の皆さんへご挨拶をお願いいたします。
こんにちは。韓国で音楽活動をしているSamuel Seoです。
ー韓国音楽界でも自粛生活が落ち着きをみせて、昨年出来なかった活動が徐々に再開され始めていると聞いています。最近はどのように過ごされていますか。
これまでの活動を振り返り、あまり満足感が持てていなかったのですが、今はきちんと方向性を決めなければならない時だと感じながら、4thアルバムの準備、そして音楽の研究と制作作業に集中しています。その他にとある放送局でラジオDJをしています。
ー最近聴いている音楽についても教えてください。
好き嫌いなく様々なジャンルに触れるようにしています。自分のスタイルにも取り入れられそうな音楽を聴くようにしているので、一つに集中するというよりは、できるだけ一日3つ以上、EPやフルアルバムを探して聴くように意識しています。
ー続いて、音楽的なルーツについてお聞かせください。過去のインタビューで、日本に住んでいた幼少期に母親にピアノを買ってもらったとのことですが、ピアノを選んだ理由が気になりました。
選択の余地が無かったんです。 普通の家庭で当時は子どもにピアノを教えることが流行りのようになっていて、最初は「エアピアノ」(ピアノを弾くふり)をしていましたが、結局「ちゃんと自分の手で弾きたい」と思ったのがきっかけになって「演奏」をするようになりました。その後高校生になって、音楽を専攻しようと決心してから本格的に練習を始めました。
ー日本、カナダに住んでいた頃はそれぞれどのようなことに関心がありましたか。
多様な経験が出来なかった環境で、人生は与えられた枠組みの中で平凡に生きていくことが全てかのように閉じた世界で過ごしてたんです。 唯一楽しかったのはカナダにいる時、家の前の大きいメープルの木の下で宿題をしたり昼寝をしていた時、それと放課後に友達とスケートボードに乗って遊んでいた時です。 当時は勉強とスケートボードが全てのように思っていたので、有名なスケートボーダーたちをたくさん見ながら練習していました。
ー韓国で暮らしはじめてからはどのような音楽に触れていたのでしょうか。
当時流行っていた演奏者たちをたくさん探して聞いたりしました。 上原ひろみさんの演奏に「わぁ、とってもかっこいい」と感嘆した時が一番記憶に強く残っています。 上原さんのNord(シンセサイザー)が欲しかったのですが、結局違う道に来てしまいました。
「アイデンティティを備えている途中段階にあった」
ー アワード受賞、来日公演、YouTube開設
ーここからは音楽活動について伺います。《韓国大衆音楽賞》の《R&B/ソウル部門》や《Korean Hiphop Awards》等での受賞やノミネートを受けて、自分のアイデンティティをR&B/SOULのジャンルで表現し、評価されることについてどのように思っていましたか。
当時は私にできる最善を尽くしていたと思います。 ただ、見落としていた部分があったとしたら、R&B/SOULというジャンルに対する浅い知識だけであまりにも多くのことを表現しようという短所がありますが、むしろそこから色々な方向の音楽を作るようになり、それが僕の歌声で一つに纏まりながら、R&Bというカテゴリーにおさまったケースだと思います。なので、当時の私はアイデンティティがまだ備わっていない、備えている途中段階にあったアーティストだったと思います。
ー2019年に、YonYon・TENDREとのコラボレーション曲「Owl(解放)」のリリースと初の来日公演、そして2020年はSKI-HIとのコラボ曲「Sexual Healing」のリリースがありました。「Owl(解放)」リリース後の初来日公演前に公開された動画では、「音楽に対する共演者たちのプロ精神を味わいたい」とお話されていましたが、そのように感じた瞬間はありましたか?また、来日公演の思い出についてお聞かせください。
実際に日本の音楽シーンでは、音楽に対する人々の態度にかなりカルチャーショックを受けました。今、私が最も重要視している音楽の本質やジャンルのルーツと、レコーディングアーティスト/作曲家として楽器とそれに伴うレコーディングに対する理解度、そして録音後の過程まで、「まさしく職人だな」と感じる場面がとても多く、レコーディングからライブ会場までコントロールされているレベルを見て、とても多くのことを学ぶ機会になりました。ライブの思い出については、とにかく観客の年齢の多様性を見て、私が本当に望んでいたライブ風景を前もって味わった感じを強く受けました。
ー昨年開設されたYouTubeチャンネルでは、『BEHIND THE ARTIST』といった音楽家ならではのコンテンツや、バラエティー番組のようなコンテンツもありとても充実していますね。開設以後、ファンや関係者からの反応はいかがでしょうか。
個人的にどんどん自分で制作して広げていくタイプなので、一つでも多く広めようという思いで始めたコンテンツです。私の長所は粘り強さだと思いますが、決まったコンテンツだけでなく続けて何かしらアップしていく予定なので、毎回遊びに来てくれたらと思います!
「Vulture (feat. DeAndre')」 「Dust」
レコード発売に関して
ーここからは、「Bside K-Indies Series」の収録曲について伺います。まずは、日本で「Vulture (feat. DeAndre')」 「Dust」がリリースされることについて率直な感想をお聞かせください。 各曲についての思い出や制作エピソードついてもそれぞれお聞かせください。
実は第二の故郷のように思っている国で発売される初のレコードというだけあって感慨深いです。音楽活動をスタートさせて初めてフィードバックをもらった時と感じが似ていますが、いつか日本でも私の存在感が認識されたら良いなと思っていたところから、今までとは違う種類の希望が生まれた感じがします。
ー2020年のアルバム『UNITYⅡ』では、収録曲の歌詞に所々ネガティブな単語が登場するのが印象的でしたが、2021年にリリースされた「Vulture (feat. DeAndre')」「Dust」には、前に進むポジティブな曲という印象を受けました。この間に何か心境や環境に変化があったのでしょうか。
活動が長くなってどうしても、あまり向き合いたくなかった産業の醜態や否定的な個人史、そこから脱することも出来ず未熟だった自分自身を磨く過程を経て、とても悲観的な人生を生きていました。 ネガティブさが曲に溶け込むのは仕方なかったと思いますが、その渦中でも大事にしていたのは、「どんな方向でも以前のアルバムより良い要素がなければならない」という個人的な執念です。 2曲を作りながら、漠然と4thアルバムを準備して堂々と出すことができそうだと思ったのですが、そんな感覚がよく溶け込んでいると思います。
ーこれまで国内外の様々なミュージシャンと制作を行われてきましたが、一緒に作っていく過程で常にどんな点を心がけて制作されていますか。
以前までは「どのように書けば多くの人が聴いてくれるか」を心がけていたとすれば、今の私は「どうすれば文化をコピーした感じでなく、文化を再解釈した音楽が作れるか」を心がけています。 歌詞の部分でその物差しを最も多く使っていて、作編曲においてはMIDI基盤の音を使わない動きを積極的に活用することに重きを置いています。
最後に
ー今後の展望についてお聞かせください。
4thアルバムの準備に心を入れ替えて、Samuel Seoというミュージシャンの新しい出発に集中する予定です。 それまで過去の楽曲をたくさん聞いていただけたらと思いますし、アルバムが発売された時に、変化を感じていただくのも良い鑑賞ポイントになると思います。
ー「Vulture (feat. DeAndre')」 「Dust」のレコードを手にした日本の方に向けて、メッセージをお願いします。
初めて日本でレコードが発売されるということで、幸せな気分を久々に感じました。リスナーにとって「良い音楽は長く残る」という言葉の中に私がいてくれればと思います。 そして4thアルバム以後は、今までの音楽に無かったSamuel Seoとしてのきちんとしたアイデンティティをお聞かせする予定です。それまでに時々EPやシングルが出ることになったら、たくさん関心を寄せてくれればと思います。
協力・監修:Bside Label