Mount XLRは、昨年の韓国大衆音楽賞・最優秀エレクトロニック・ソング部門を受賞するなど、韓国エレクトロニック・ミュージック界でいま最も注目を集めるプロデューサーの一人だ。
電子音楽にフォーカスしたレーベル〈SoundSupply_Service〉から継続的にリリースを重ね、初期にはBalming TigerのOmega Sapienへの楽曲提供、人気R&BシンガーCrushの客演曲への参加、さらにはaespaの公式リミックスを手がけるなど、国内では引く手あまたの存在となっている。
一方で、彼のトラックにはガラージやベース・ミュージック、IDMの影響が色濃く表れており、英米のプロデューサーたちとの共振も感じさせる。実際、ここ数年でHudson Mohawkeの公式リミックスを手がけ、Fred again..やJamie xxからのシャウトアウトを受けるなど、その活動の場を一気にヨーロッパへと広げている。
そうした彼の音楽や動きからは、韓国とヨーロッパのエレクトロニック・ミュージックを横断し、接続していくようなクロスオーバーの力を感じていた。本稿に収めたインタビューからも、彼が育った韓国の環境、インターネット発のプロデューサー・シーン、そして留学先であり憧れの対象でもあったイギリスのシーンについて、行き来するように語られている。
本記事は、日韓双方の現在進行形の電子音楽を共有するイベント『umm edition vol.3』への出演にあたり、来日を前に実施したものだ。彼のキャリア初期から共に歩んできた電子音楽レーベル〈SoundSupply_Service〉の代表・ジョンビンも同席し、幼少期からデビュー前の音楽環境、インターネット上のエレクトロニック・ミュージック・シーン、そして楽曲制作における哲学について話を聞いた。
Interview & Text:山本大地
■ Mount XLR:Instagram|Bandcamp|SoundCloud
RPG制作とヒップホップから始まった創作の原点
—— 子どもの頃はヒップホップに興味があったと聞きました。どのようなきっかけで音楽を始めたのでしょうか?
Mount XLR:幼い頃はヒップホップが好きで、ラップをやってみたんです。好きだった曲を真似して歌いたくてインストゥルメンタルのトラックを探していたら、自作曲を作っている人たちが周りにいることを知って。「自分にもできるんじゃないか?」と思って、スーパーに行って安いマイクを買ってラップを録音してみたのが始まりでした。
それと、子どもの頃から漫画を描くのも好きだったし、小学5年生くらいのときには同世代の間でパソコンでRPGゲームを作るのが流行っていて、自分で作ってみたりもしていました。「作れる」と分かると、とにかく何でも自分でも作ってみたくなるタイプだったんです。
—— 興味を持ったらすぐ行動に移すタイプだったんですね。小学生でRPGゲームを作っていたというのも興味深いです。
Mount XLR:ゲームを作って関連コミュニティに投稿していました。ゲームの中に少し複雑だったり難しいシステムを実装しておくと、「すごい!」って反応してもらえて、それがすごく楽しかったんです。そういうところは今もあまり変わっていないと思います。子どもの頃から、自分が作ったものをインターネットにアップして、人の反応を見るのが好きでした。
—— そういう意味では、パソコンで何かを作っていた経験が、今の電子音楽の制作にも影響していると思いますか?
Mount XLR:ある程度は繋がっていると思います。当時はパソコンでできることは一通りやっていた気がします。ウェブサイトも作りましたし、Flashアニメーションも触っていました。コーディングが得意だったわけではないのですが、「自分で何かを作って、それが動く」ということ自体が好きだったんだと思います。
実は今でも、音楽をやっている理由って「楽しいから」とか「人を楽しませたいから」というより、「自分が出来なかったことを出来るようになる感覚が好きだから」なんです。電子音楽はまさに自分にとってそういうジャンルですね。僕の感覚では、どの時代でも優れた音楽家というのは、リスナーに難しい“問題”を投げかける人たちだと思っています。そしてその問題を解いた人たちが、その時代の音楽家として残っていく。そういうあり方が、自分にとって一番のモチベーションなんだと思います。
—— では、音楽の話に戻ると、ヒップホップから電子音楽へと移行したきっかけは何だったのでしょうか?
Mount XLR:当時は Kanye West や A$AP Rocky みたいなヒップホップアーティストがとにかくかっこよく見えていました。でも中学3年生くらいのときに、音楽だけじゃなくてファッションやビジュアルまで全部かっこいい彼らを見て、「自分はああいうふうにはなれないな」と思ったんです。彼らは文字通り人生そのものをヒップホップとして生きている人たちで、自分はそういう生き方をしている人間ではなかったので、プレイヤーとしてその条件を満たすのは難しいと感じました。
それでも音楽自体をやめようとは思いませんでした。すでに3年くらい続けていたので、自分のことを「音楽をやる人間」だと思っていましたし、自然とラップよりもビートを作る方向に移っていきました。
—— ビートメイキングはどのように始めたのでしょうか?
Mount XLR:最初はFL Studioのようなソフトを使って制作を始めました。シンセサイザーもそのときに初めて触りましたね。最初はただボタンを押して音を見つけるツールだと思っていたんですが、誰かに「プリセットも自分で作れる」と教えてもらってから、本格的に電子音楽の方へ進んでいった気がします。電子音楽よりも先にヒップホップを通じてシンセサイザーに触れていたとも言えますね。
自分はジャズでもロックでも、楽器は実際に演奏してこそ深く理解できると思っているんですが、シンセサイザーも同じでした。そうやって勉強を続けていくうちに、自然と電子音楽への理解も深まっていったと思います。
「技術」ではなく「文脈」を。ロンドンでの学びがもたらした独自の視座
—— 大学はイギリスのロンドン大学ゴールドスミス・カレッジに進学し、現代美術を専攻されたと聞いています。どのような経緯だったのでしょうか?
Mount XLR:韓国では基本的に大学に行くべきだという空気がありますよね。でも自分は勉強が得意ではなかったので、自然と音楽を学ぼうと思って音大を受けたんですが、落ちてしまったんです。そのときはかなり腹も立って、「絶対に音大には行かない」と思ったりもしました。
それで進路を考え直していたときに、親から「今ならイギリスに行かせてあげられるけど、今じゃなければ難しい」と言われたんです。ちょうどその頃はソウルにずっといるのも嫌だと思っていたので、その提案を聞いてすぐ「じゃあ行く」と決めました。
ただ実際にはイギリスの大学についてほとんど何も知らなかったので、かなり単純に考えていて、「James Blakeはどこの学校出身なんだろう?」と調べて、その大学を選んだ、という感じでした。
—— 「James Blakeがいるから」という理由で!(笑) 音楽ではなく現代美術を専攻された理由は何ですか?
Mount XLR:音大に落ちた後は、音楽を専攻したいとは思わなくなっていた気がします。当時はメディアアートやコーディングベースの制作にも興味があって、Maxのようなプログラムも触っていました。ただ一方で、「この道に進んだら一生コーディングをすることになるかもしれない」と思ったんです。
結局、自分は音楽をやりたいという気持ちのほうが強かったので、あえてデジタルアートは選びませんでした。その代わりにファインアート、絵画のほうに進もうと考えました。「将来ミュージック・ビデオやアルバム・カバーを自分で作れるんじゃないか」という考えもありましたし。でも実際に入学してみると、そういった実務的なことは学校では教えてくれませんでした。
—— 実際に経験されたイギリスの芸術教育はいかがでしたか?
Mount XLR:想像していたものとはかなり違いました。技術を教える場所ではなく、「君はすでにアーティストである」という前提で始まる学校だったんです。授業では哲学書をたくさん読みました。デカルトの哲学やシミュラークルのような概念を学びながら、4年間ほとんど論文を書いているような感覚でした。制作もしながら、ずっと考え続けていましたね。
イギリスでは「技術的に上手くなる方法」は教えてくれませんでした。その代わりに、自分ができる最善は何かに焦点が当てられていました。絵でも写真でも、「それを通して何を語れるのか」をより重要視していたと思います。
—— そうした教育は現在の制作にも影響を与えていますか?
Mount XLR:はい。振り返ってみるとすごく意味のある経験だったと思います。結局、すべての芸術はある「文脈」の中に作品を投げ込み、その中で観客が解釈し評価するものだと考えるようになりました。単に絵が上手いとかピアノが上手いとかいうことよりも、その作品がどこに置かれ、どんな状況で体験されるのかのほうが重要だという視点を持つようになりました。留学を通してそういう部分を学べたのは、今でも本当にありがたい経験だったと思っています。
—— イギリスに行く前は「今より、あるいは誰かより上手くなりたい」という競争心が強い動機だったように思いますが、イギリスに行って別の視点にも触れたのですね。その経験は制作のアプローチにも影響しましたか?
Mount XLR:競争心自体はイギリスに行ってもそのままでした(笑)。健全ではないかもしれませんが、それは自分の性格なので、最後まで貫いて戦いたいという気持ちは変わっていません。ただ、イギリスでの経験を通して、少しだけ「大人っぽく、そして利己的に」考えられるようになったのは確かだと思います。
SoundCloud世代の連帯とソウルへの反発心。インターネットから始まったキャリア
—— 韓国に戻ってからは最初、本名で他のアーティストと制作をされていましたが、初期はどのようにしてそうした繋がりが生まれたのでしょうか? 音楽仲間とはどう出会ったのでしょうか?
Mount XLR:イギリスに行く前から、友達は現実世界よりもインターネットで出会うことが多かったです。当時はFacebookやSoundCloudのようなプラットフォームが活発でしたから。同年代で音楽が上手い人を見つけると自然に交流するようになって、そういう友達が自分を本格的に音楽の世界に導いてくれたと思います。
—— オンラインで出会った仲間は活動の原動力にもなりましたか?
Mount XLR:原動力になりましたし、競争相手としても意識しました。「誰が一番上手いか」、「自分ももっと上手くならなきゃ」という気持ちになれたし、常に同世代の中で一番になりたいと思っていた気がします。お互いに曲を送り合いながら刺激を受けていました。
—— 初期の代表的な仕事としてはBalming TigerのOmega Sapienとの制作が思い浮かびますが。
Mount XLR:SoundCloudやFacebookで知り合った友人の中には既に本格的に活動を始めていた人たちがいて、その人たちを通して自然と繋がりが広がっていきました。FRNKやNo Identityのように、今ではそれぞれのポジションを築いているプロデューサーたちも、当時は同じ世代の音楽仲間でした。その中にBalming TigerのSan Yawnがいて、ちょうどBalming Tigerが始まったばかりの頃でした。「新しいメンバーが入るんだけど、一緒にやってみない?」と声をかけられて参加したのがOmega Sapienのプロジェクトで、それが初めて世に出た作品になりました。振り返ると、オンラインから始まった関係が自分の音楽キャリアの重要な出発点だったと思います。
—— 当時のSoundCloudベースのコミュニティについても教えてください。
ジョンビン:僕たちはまさにSoundCloud世代でした。中高生の頃にSoundCloudを通じて知り合った友達が多くて、実際に会って音楽の話をしたり、Skypeでやり取りしたりしていました。〈SoundSupply_Service〉でMount XLRと同じようにリリースしているキム・ドオン(Kim Doeon)やイ・スホ(Leesuho)もそうやって知り合ったし、レーベル・メンバーではないけれどラッパーのKim Ximyaのような友人も含めて、みんなでつるんでいるグループがありました。
—— 当時はクラブよりもオンラインのほうが重要な場所だったのでしょうか?
Mount XLR:実際、SoundCloudで活動していた人たちはクラブをあまり好んでいませんでしたし、当時はまだクラブに行ける年齢じゃない人も多かったです。それにソウルという都市は、こういうジャンルが好きな人たちとオフラインで知り合うのが難しかったんです。結局、インターネットでしか出会えなかったんですよね。
—— では、Mount XLRとして成長し、仲間や〈SoundSupply_Service〉のチームと出会ったソウルという都市での経験も音楽に大きな影響を与えているように思います。この点についてはいかがでしょうか?
Mount XLR: 実際、イギリスで過ごした時間よりもソウルで過ごした時間のほうが長いですし、影響も大きいと思います。ただ、それはポジティブな影響というよりは、むしろネガティブな感情から始まったものが多いです。息苦しさや怒り、孤独、やるせなさといった感情が大きかったんです。そうした感情が「とにかくもっと上手くならなければ」という考えにつながり、より良い音楽を見つけたい、もっと上手くなりたいという欲望を生んだと思います。若い頃に韓国のエレクトロニック・ミュージックのシーンを見て感じていた物足りなさも大きかったですし。だからこそ海外で認められたいという欲望が強くなったのだと思います。「自分はあの道には行かないぞ」という反発心が今の自分を作っているのだと思います。なのでソウルという都市そのものを好きだとは言いにくいですが、その中で似たような感情を持った人たちと築いたコミュニティは今もとても大切に感じています。
理性的に、そして利己的に。ヘッドフォンの中の孤独に届ける音
—— ご自身の音楽スタイルや制作方法に最も大きな影響を与えたミュージシャンを2人挙げるとしたら誰でしょうか?
Mount XLR:2人挙げるとすれば、まずはKanye Westです。特に楽曲の構成や展開の仕方、そして全体的なスケール感に大きな影響を受けました。Kanye Westの音楽には独特の壮大さがありますよね。そういう部分が自分の制作にも影響していると思います。
—— ヒップホップから出発して、徐々により実験的なサウンドへと拡張していった点も似ているように感じます。
Mount XLR:そうですね。特に『Yeezus』というアルバムは自分にとって非常に重要でした。あのアルバムはヒップホップとエレクトロニック・ミュージックの境界を拡張した作品だと思っています。Hudson MohawkeやArcaといったプロデューサーも参加していましたし。それを通して「ヒップホップが電子音楽になり得るし、電子音楽がヒップホップにもなり得る」という可能性を初めて実感しました。今でもあのアルバムで使われていたサウンドの言語やアプローチが、自分の音楽に影響を与え続けていると感じています。
—— もう1人は…?
Mount XLR:James Blakeです。James Blakeがきっかけでイギリスに行くことになりましたし、ダブステップというジャンルを知ったのも彼のおかげですし、シンセサイザーを買うことになったのもそうです。音楽的な影響もありますが、それ以上に自分を「動かした」存在に近いと思います。特に初期の作品がすごく好きで、曲が急に途切れたり、予想できないような展開をしたりするのが印象的でした。そういう感覚は自分の制作にもある程度影響していると思います。
—— Mount XLRの音楽を聴くと、ビートを細かく切り刻んで再構築するような、非常に機械的で人工的な印象がありながら、同時に身体が自然に反応するクラブ・ミュージック的な要素も感じられます。そのあたりは初期のJames Blakeの楽曲とも通じる部分があるように思いますが、そうしたバランスを作る際に特に意識していることはありますか?
Mount XLR:特に意識しているというよりは、単純に「良いものを作りたい」という気持ちが一番大きいと思います。クラブ・ミュージックっぽく聴こえるのも、そもそもこの音楽自体がクラブから生まれた言語なので自然とそうなるんだと思っています。自分としては、その中でどれだけうまく作れるか、どれだけ「面白い音」を作れるかのほうが重要ですね。どんな曲でも、自分が最後まで作り続ける基準は、その中で新しい音や興味深いポイントを見つけられるかどうかだと思います。
—— では、リスナーを意識して、例えば「踊らせたい」とか「特定の反応を引き出したい」といった考えはありますか?
Mount XLR:ダメなミュージシャンかもしれませんが、リスナーのことはあまり考えていないほうだと思います(笑)。最近になって少しは考えるようになってきましたが、基本的にはかなり自己中心的なやり方で音楽を作っています。それよりも同時代のプロデューサーたちのほうを意識している気がします。「これを聴いて嫉妬してほしい」とか「上手いって言われたい」といった感情のほうが強く働いています。この部分は子どもの頃から変わっていないですね。
—— クラブでの経験をもとに音楽の役割を考えるアーティストも多いですが、そうしたアプローチとは少し違う方向のようですね。
Mount XLR:そうですね。だからたまに「自分は本当にミュージシャンなのか?」って思うこともあります(笑)。
ジョンビン:考えてみると不思議だよね。クラブとは全く別の世界の人みたいなのに、実際のライブ活動はかなりクラブと結びついているから。
Mount XLR:そうなんですよ。だから大変なんです(笑)。
—— 最近は知名度も上がって、クラブやライブ会場で観客と直接会う機会も増えていると思いますが、そうした変化は音楽の方向性にも影響していますか?
Mount XLR:やはり影響を受けざるを得ないと思います。3年前と今では生活のパターンも完全に変わりましたし、いまだに誰かに自分が認識されるというのが不思議なんです。以前はクラブで「これをかけたら踊れなくなって面白いだろうな」といったことをよく考えていました。その感覚が恋しくなることもありますが、今は少し変わりました。最近は「この人たちが楽しく遊んで帰ってくれたらいいな」と思うようになってきていて、そこから自然と「アーティストとは何か?」という問いを考え続けるようになっています。まだその答えを探している途中で、おそらく次のアルバムはその問いに対する何らかの答えが見つかったときに生まれるんじゃないかと思っています。
—— では、クラブという空間はご自身にとってどんな意味を持っていますか?
Mount XLR:正直なところ、いまだによく分かっていません。クラブという空間をはっきりと定義するのは難しいと思います。
—— では逆に、ご自身の音楽を最も届けたい環境があるとしたらどこでしょうか?
Mount XLR:自分の音楽は…昔の自分みたいな人のヘッドフォンの中で聴かれてほしいですね。自分自身もかなりこだわりの強い聴き方をするタイプだったと思うので、そういう人たちに支持される音楽であってほしいです。そういう人に自分の音楽が届くのであれば、それが自分が音楽をやる理由なんじゃないかと思います。
—— エレクトロニック・ミュージックはクラブの文脈もありますが、一方で一人でヘッドフォン、イヤフォンで聴くのにも適した音楽でもありますもんね。
Mount XLR: 例えばRadioheadの音楽を思い浮かべると、それを聴く人のイメージが自然と浮かびますよね。どんな人生を送っているのか、どんな感情の状態にあるのか、といったことが。そしてその音楽も結局はそういう人たちが作ったものだからこそ生まれたものだと思うんです。意図していなかったとしても。
自分が好きだったエレクトロニック・ミュージックも似たような文脈だと思います。その音楽を作っていた人たちも、どこかに悲しさを抱えていたり、自分のことをあまり好きではなかった人たちなんじゃないかと思います。結局、音楽というのはジャンルよりも「どんな人が作ったのか」がより表れるものだと思います。
—— ビートを作る際、感情を強く込めるタイプですか?それとも比較的冷静に作るタイプですか?
Mount XLR: 意識的に感情を込めようと思って作ることはあまりないと思います。もちろんその時期の感情が自然と作品に反映されることはありますが、「これは悲しい物語だ」といったように明確に設定して作ることはありません。制作のプロセス自体はむしろかなり冷静なほうに近いと思います。
自分は音楽を自分が作っているというより、コンピューターが作ってくれていると考えているんです。自分の役割は選択し続けることで、その選択基準が結局は自分の感情に反応するかどうかなんだと思います。感情に響かない音は選ばないので。そういう意味では感情は必ず入りますが、プロセス自体はとても理性的に進んでいる感覚があります。
結局、自分にとって重要なのは感情の種類よりも「どれだけ良く作れたか」なんだと思います。悲しい音楽を作っていたとしても、それをうまく表現できていればすごく楽しいんです。どんなジャンルでも、どんな感情でも、うまく作れればそれは良い作品だと思っています。
—— 楽曲ではボーカル・サンプルが印象的に多く使われているように感じますが、ボーカル・サンプルの使い方においてご自身なりの方法や哲学はありますか?ボーカル・サンプルは曲の中でどんな役割を担っていると考えていますか?
Mount XLR: 面白いことに、実はボーカル・サンプルを使っていない曲もたくさん作っています。ただ、結果的にリリースされる曲はほとんどがボーカル・サンプルを使ったものなんですよね。特別な哲学があるというよりは、いろんな影響が自然に混ざった結果に近いと思います。ヒップホップを聴いて育ったので、ボーカルがないと少し物足りなく感じる部分もありますし、James Blakeも、どんな形であれ必ず曲の中にボーカルが入っていますし。ボーカル・サンプルを入れると音楽が良くなるという感覚があるんだと思います。
—— ボーカルサンプルの選び方についても教えてください。
Mount XLR: YouTubeでほとんど誰も見つけないような動画から音を抜き出して、それをまったく別の形に変えて使うのも好きです。あえて一つ挙げるなら、元の文脈を消してまったく新しい音に変換して使うやり方が自分のスタイルに近いと思います。ランダムな音を拾ってきて遊ぶような感覚ですね。
■1st EP『Phase i』(2025)。一曲目の『Fadees』では、インディ・ロックバンドSE SO NEONのボーカル/ギターであるSo!YoON!の声をサンプリング。
「5時間の戦略」で掴んだ希望。Hudson Mohawke との出会い
—— これまでのさまざまな活動の中で、ご自身にとって最大のハイライトだと感じる瞬間は何ですか?
Mount XLR:Hudson Mohawkeのリミックスです。自分の人生で初めて、音楽をやっていて「希望」というものを感じた瞬間だったんです。今後もっと大きな成果を出したとしても、あの時の感情を超えるのは難しいと思います。
—— リミックス・プロジェクトはどのように始まったのですか? WARP Recordsから連絡が来たのでしょうか?
Mount XLR:正確にはHudson Mohawkeがステム(マルチトラック)を公開したんです。エレクトロニック・ミュージックのシーンではそれは実質的に「リミックスしていい」というサインなんですよ。それで「今から5時間以内に作って送れば聴いてもらえるかもしれない」と思って、実際に5時間で完成させてDMで送りました。もちろん最初は何の返事もありませんでした。
そのまま3〜4ヶ月ほど何も反応がなかったんですが、ある日Instagramの通知を見たらHudson Mohawkeが自分をフォローしていたんです。それでDMを確認したら「Your remix is great」というメッセージが来ていました。本当に信じられなかったですね。自分にとってはほとんど実在しないような存在の人だったので。
そしてその翌週くらいに韓国でライブがあって、そこで直接会うことができました。ライブ後に挨拶しに行ったら、最初の一言が「メール見た?」だったんです。「どのメールですか?」と聞いたら「君のリミックス、リリースされるよ」と言われて。その場で初めて、この作品が実際にリリースされることを知りました。現実味がなくて、その後しばらくは友達と会うたびにその話ばかりしてお酒を飲んでいた記憶があります。
—— 数多くのリミックスの中から選ばれた理由は何だと思いますか?
Mount XLR:戦略的にアプローチしたのが大きかったと思います。ほとんどの人がUKガラージやベースミュージック系で送ってくるだろうと考えました。だから自分はあえてまったく違う方向でいこうと思ったんです。自分のリミックスはエレクトロニック・ミュージックというより、2006〜2007年頃のヒップホップに近い感覚です。Hudson Mohawkeはもともとそういう音楽をやっていた人だと思っていたので、「これなら少なくとも最後まで聴いてもらえる」と判断しました。あまりに予想通りのスタイルだと何百もの中に埋もれてしまうと思って、意図的に別の方向からアプローチしました。
—— 今回の東京公演ではどんな姿を見せたいですか?
Mount XLR:まず今回の公演は、自分にとって海外での初めてのライブセットなので、それだけでとても新鮮に感じています。しかも会場がクラブで、時間帯も深夜なのでさらに興味深いです。これまでは主に終電前の時間帯にライブをしてきたので、今回はまったく違う環境なんですよね。なので「クラブという空間でしかできないライブとは何か?」ということを考えていますし、同時に観客がどんな反応をするのかもすごく気になります。DJとライブはまったく違う体験だと思っているので。
公演詳細

『umm edition(ウムエディション)』
日時:2026年4月3日(金) OPEN / START 23:30
会場:Spotify O-EAST 3F
チケット:Zaiko|RA
・前売り:一般 3,000円 / U23 2,000円
・当日:一般 3,500円 / U23 2,500円
出演:
Mount XLR(Live set) from Seoul
食品まつり a.k.a FOODMAN(Live set)
FELINE
DJ DJ 機器
deadfish eyes
企画:Balsin
協力:SoundSupply_Service
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