新進気鋭の韓国ミュージックを国内に紹介するレーベル〈Bside〉。韓国音楽シーンを盛り上げているアーティストの既発曲からセレクトし、バイナルカットするプロジェクト「Bside K-Indies Series」の第4弾が2月24日にリリースされた。今回リリースしたアーティストは、女性シンガーソングライターのStella Jang(ステラ・チャン)、Sunwoojunga(ソヌ・ジョンア)、Minsu(ミンス)。
BUZZY ROOTSでは、3アーティストのインタビュー記事を順次公開。
メジャーとインディーズ、そしてジャンルやスタイルの単純な図式や境界にこだわらず、歌や作詞曲、また数々のK-POPアーティストたちのプロデュースまで全方位で活躍をみせる85年生まれの個性派音楽家、Sunwoojunga(ソヌ・ジョンア)。
幼い頃からピアノやギター、ダンスなど音楽に親しみ、自然とミュージシャンの道を志すようになる。高校生の頃からシンガーソングライターとして弘大で音楽活動を始め、2006年に『Masstige』でメジャーデビュー。大学で学んだジャズを基盤にした独創的な楽曲は韓国音楽界にインパクトを与えた。
彼女の音楽人生に転機が起こったのは、K-POP界3大事務所の一つであるYG Entertainmentからプロデューサーのスカウトを受けたことだ。2NE1「It Hurts」、GD&TOP「Oh Yeah feat.Park Bom」、LEE HI「One-Sided Love」など立て続けに制作に参加し、YG所属アイドルたちの音楽的スペクトラムを広げた立役者としてその力量を発揮する。
その後、2014年に2ndアルバム『It's Okay, Dear』が《Korean Music Awards(韓国大衆音楽賞)》で「最優秀ポップアルバム」、「今年のミュージシャン」を同時に受賞し、プロデューサー/シンガーソングライターとして活動を続けてきた彼女は以降さらなる活躍を見せる。
人気アイドルたちのメジャーシーン、彼女のような個性的なシンガーソングライターたちが存するインディーズシーンと交流はとても幅広い。CNBLUEのジョン・ヨンファとコラボした「Fireworks」「Empathy」でアイドルファンの認知を広げ、HyunA「Mornig glory」、INFINITEキム・ソンギュ「Room」、IU「Jam Jam」、gugudanセジョン「Plant」、さらには大物先輩歌手イ・ムンセの「Between Us」、Car,the garden「Lost 2」、The BLANK Shop「AmoneThat’sCapone」など、コラボや楽曲提供のラブコールが絶えず、次にコラボしたい人という質問では必ずと言っても良いほど名前が出る。最近ではBTSが一番好きな歌手と紹介し話題となった。また手がけた楽曲のほとんどがファンの間で名曲に挙げられることも少なくなく、リスナーとミュージシャン双方から愛されている。
さらにはテレビのバラエティ番組でも注目を浴びている。Mnet『ボイスコリア』やバヌアツの島で音楽制作を行ったSBS『サウンドオブミュージック 音楽の誕生』MBC『覆面歌王』『遊ぶなら何する』、JTBC『Sugar Man』では、磨き上げた実力で視聴者を圧倒させた。
ドラマや映画など、登場人物や物語に焦点を当てた楽曲も素晴らしいものばかりだ。『怪物(2021)』『LUCA:The Beginning(2021)』『ザ・キング 永遠の君主(2020)』などの作品をはじめとするドラマOST、またミュージカル「ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ(2014)」や映画『罪深い少女(2018)』の音楽監督を担当。様々な場所で頭角を現している。
“マルチプレイヤー”として、メジャー・インディーズを超えて交流を持ち、さらにはテレビやラジオなどメディアで活躍を見せ、アーティストとリスナー双方に愛される彼女を見ていると、改めて"メジャー・インディーズ"という概念を用いることに複雑な気持ちになる。既に韓国ではそのような垣根はもう無くなっているような気もするが、両シーンの真ん中に立つ彼女は今どう思っているのだろうか。
音楽性だけでなく、真摯にリスナーやファンと向き合うその人柄にも大衆に愛される理由がある。ラジオ番組『Sunwoojungaのミュージックワンダーランド』では、日常の話や音楽をテーマに本音でリスナーとたくさんの言葉を交わした。そして昨年の自粛期間に始めたオンラインライブは、その場でリクエストやコメントを見ながら進めていくカジュアルな雰囲気で、コアファンだけでなくライブに行く機会が無かった国内外のリスナーも楽しめるコンテンツとして多くの反響を得た。
今年の《Korean Music Awards(韓国大衆音楽賞)》「最優秀R&B、ソウルアルバム」部門を受賞した3rdアルバム『Serenade』は自身の内省の感情に向き合い、制作されたアルバムである。ありふれた言葉ではない彼女の言葉と音楽で書き記したメッセージは広く共感を得て、人々の憂鬱な感情を慰めた。発売から2年が経った現在でもロングヒットを飛ばしている。
そんな彼女の音楽性とパーソナリティーにさらに迫るべくメールインタビューを敢行。
《Korean Music Awards(韓国大衆音楽賞)》受賞や、音楽スタイルの核とそれを構成する要素について、またメジャーとインディーズ両シーンに立つ現在の心境についても語ってもらった。
そして最後に、日本発売にちなみ海外や日本のファンについてや7inch収録曲「Idle Idle」「CAT」に関して制作背景を訊いた。
大衆に愛される音楽家・Sunwoojungaの核とは
ーまずは読者の皆さんに挨拶をお願いいたします。
こんにちは。韓国で音楽をしているSunwoojungaです!
ー《Korean Music Awards(韓国大衆音楽賞)》「最優秀R&B、ソウルアルバム」受賞おめでとうございます。受賞の感想をお聞かせください。
とても光栄ですし、嬉しいですね...大切な記録であり思い出です。また、審査員の方々の心遣いにもとても感動しました。私はジャンルを特定するのが簡単ではない音楽をしていますが、それでも一つのアルバムを作る時にはいつもよりもっと見つめている方向があるんです。そこが、審査のポイントに含まれていたので本当に嬉しいです。2集の受賞の時も同じように感動しましたが、3集でもそれを感じることが出来て倍に嬉しいです。
ー現在の音楽スタイルを形成した曲を3つ選ぶとすると何でしょう?選んだ理由もお聞かせください。
うーん、色々と難しい質問です。私の現在のスタイルも自分で整理するにはあまりにも多いなぁと思っていて、絞って3曲選ぶというのは本当に難しいです。アルバム単位で大きく影響を受けたので、アルバムで選んでも良いですか?TvT
* Feist『Let it die』
このアルバムは20代前半の幼い想像力を奮起させてくれたアルバムです。様々なスタイルが出会って成す独自のコンビネーション、インディーズ音楽の限りない可能性、心地よいユニークさ、Lo-FiとBad Recordingの魅力。私が持っている最大限の文章力で説明するのはアルバムに対して申し訳ない気持ちです。
* Norah Jones『The Fall』
2ndアルバム『It’s Okay,Dear』制作時、本当にたくさん聴き込んで勉強したアルバムです。私もジャズ基盤で音楽をしてきたので、一般的に知られている彼女の初期作とは異なるこのアルバムが心地よい衝撃というか、新たなヒントでした。バンドサウンドを彼女はこうやって手がけるのか、全体的に重々しい曲も落ち着いていて聴きやすい雰囲気にすることが出来るのか。最小限の材料で最上の結果を出す、スタンダードなムードを持つアルバム。優れた匠にこそ作ることの出来るバランスだと私は思います。今でも本当にたくさん聴いています。
* Bjork『The Greatest Hits』
Bjorkのアルバム全て大好きですが、その中でも特にたくさん影響を受けたコンピレーションアルバムです。私にとって、彼女の主要作全て歴史的な数学の公式と似ています。時代が変わっても野暮ったくないサウンドとスタイル。具体的に影響を受けることも出来ない、まだまだ遠いレベルの音楽ですが、それでも数え切れないほど聴いて渇望し尊敬しています。
ーTVだけではなくラジオにも多く出演されていますね。特にラジオプログラム「Sunwoojungaのミュージックワンダーランド」はPodcastを通じて日本でも人気が高いようです。DJの経験はどのような時間だったと考えますか?
私も時々日本のリスナーの方々の反応を見かけました。直接放送局のアプリにメッセージをくださった方もいらっしゃいました。その方々がぜひこのインタビューを見てくださると嬉しいです。こんにちは〜!
ラジオは本当に不思議です。人と人の間に誤解と偏見を招くオプションを最大限抜いて、コミュニケーションしようとする本心どうしが触れ合う感じ。そんな魔法のような媒体のより近くにいるDJなので、どの時期よりも人々の気持ちについてたくさん考えました。世の中には本当に多様な人生がある。当然のことですが、忙しいとあまりピンと来ないじゃないですか。この言葉がいつにも増して大きく感じられて、自省もたくさんするようになり、もっと良い人になりたいと切実に望んだりもしました。まとめると、内面を隅々まで見れた時間と言えそうです。
ー曲を書かれる時に、作曲・作詞どちらから始めますか?
基本的に同時多発的に作るほうですが、先に歌詞を完成させることはほとんどないです。(3集アルバム『Serenade』の「to Zero」が今までで唯一です)始めにテーマといえる音楽の塊と歌詞が一緒に浮かんできて、プロデュースの方向を決めて、歌詞よりは音楽面で完成に向かって速度を上げていく感じです。ですが、歌詞は作曲作業を進める時にずっと指標になってくれます。歌詞は後でつけていきますが、どこにどんな画を展開していくかとか、どんな素材やテーマが出るかというアウトラインが前もって描けているということです。
ーピアノ、ギターなど様々な楽器を使われますが、作曲はどの楽器から始めますか?
曲ごとに異なります。キーボードが一番得意ですが、ギターを演奏するのも本当に好きなんです。「Run With Me」はピアノで、「SPRINGIRLS」はギターでした。そして、先に挙げた2つ以外にもMIDI Programmingで始まった曲も多いです。今思い出して自分でも意外だったなと思ったんですが、「CAT」もそうです。
ー映画やミュージカル、ドラマの音楽制作に関して、他人の話を表現することにおいて重要だと考えるポイントは何でしょうか?
その話が自分の話のように感じられるよう共感を得ることです。得られないこともありますが。ミュージシャンの想像力で”共感するキャラクター”を設計しておいて、その”キャラクター”をベースに作っていく方法が作曲に役立つんです。これは他のアーティストから依頼を受けて書く時にも同様ですが、依頼した方をイメージし先ほど言った”キャラクター”に置き換えてから始めると、より早くアイデアにアプローチ出来るようになります。
ーディレクションやフィーチャリング等でこれまで様々なミュージシャンと制作されていますが、一緒に作っていく過程で常にどんな点を心がけて制作されていますか?
お互いが共感することです。そのため直接的なコミュニケーションももちろん重要ですが、先の質問の回答でもお話したように想像力も重要だと思うんです。心と想像をオープンにしておくよう努力してます。私にとって簡単ではないことなのでとても気を遣う部分です。
ーYouTube, Instagramなど様々なSNS、そしてApple MusicやSpotifyなど海外ストリーミングサービスが進出し、自身の音楽を広く知らせ、コミュニケーションを取る機会が多くなっていると思います。海外のリスナーにはどんな印象を抱いていますか?
未だに、ただただ不思議です。アプリごと翻訳機能も持っているので海外リスナーの方々が時々どんな感想を持っているかを知るとより嬉しいですね。言語と文化を超越する音楽(自体)の力を改めて感じます。
ーメジャーとインディー両方で活動をされてきましたが、その経験を経て、この2つの領域についてどのように考えていますか?
自分をどこに置くべきか、どこに向かっていけば良いのか悩んだこともありましたが、今ではただジャンルのように考えています。ただ違うスタイルってだけです。だんだんと、シーンを区分する概念が混ざっているケースが増えてきた気がします。単に、制作環境に大きな資本が入るからと言って、メジャーだと断定するわけにもいかないし、資本と人材は全て小規模に、ほとんど自力で作っても、プロデュースの方向とマーケティングをどのように解決するかによっては大衆はメジャーのように見ることもあります。いつからか私も、状況や自分の意見に合わせてその時ごと異なる方法で解決するようになったんです。このアルバムはメジャー、あのアルバムはインディーズのシステムで、といった感じで。事実こんな感じで区分が出来ないのですが、言うならばこんな感じです。
「日本語で歌ってもとても合うと思う」ー「Idle Idle」「CAT」エピソード
ー現在の自粛生活にぴったりの曲「Idle Idle」について、制作経緯を具体的にお聞かせいただけますでしょうか。
皆さんそうだと思いますが、私も横になって休むのはとても大好きです。休む!って決めた時には、本当にこのまま存在が溶けて無くなってしまいそうって思うほどにだらだらします。それにコロナの影響で仕事が減ったので、ゴロゴロする時間が恐ろしいほど増えたんですよ。曲が浮かんだ日もリビングのソファーで一日中ゴロゴロしていました。幸い手の届くところに小さなギターを置いてたので、浮かんだアイデアはスマホに録音できました。
ーこの自粛生活で仕事の環境や心情に変化はありましたでしょうか?
元々出来る限り家や作業室にこもっていたので…ウイルスに対する警戒心を除いては変わったことはないですね。
ー「CAT」について、一見すると小悪魔的な女性にも見える歌詞ですが、そのような部分はご自身にもあると思いますか…?
お、このような確かな感想は初めてです。嬉しいですね!それから、そうです。人は皆、よく見えない所に意外な魅力を持っています。私にもとても妖しい魅力が.......ㅋㅋㅋㅋ すみません。ですが冗談ではないです。
ー「CAT」のフィーチャリングをIUさんに依頼した理由は何でしょうか?
元々多くの魅力を持つ彼女からインスピレーションを受けて作った曲でした。しかし、フィーチャリングができることになるとは思いもしませんでしたが、叶ってしまいました!
ー今回のレコードはBsideからリリースされましたが、自身の全ての楽曲の中で、まさにこれはBsideと言えるような楽曲を選ぶとすると何でしょうか?
「Betrayal Awaits」です。この音楽は20代初盤に作ってインディーシーンで長い間ライブで披露していた曲です。時が流れ、私のミュージシャンとしての気持ちも変わったからです。こういった曲がA-sideで、「CAT」「Run With Me」みたいな曲が私のB-sideだった日がありましたが、現在はこうですね。
ー日本で「Idle Idle」「CAT」がレコードで発売されたことについての感想をお聞かせください。そして、レコードを購入された日本の方にメッセージをお願いいたします。
海外活動をずっと望んでいたものの、本格的に始めてなかったので、リリース後の今もまだドキドキしています。違う文化で暮らす方々にどのように伝わるのか気になりますし、また緊張もしています。機会があれば日本語で歌ってもとってもよく合うと思う2曲です。そんな機会が来ることを一緒に期待しましょう!そして私のレコードを聴く時はどうか楽しく素敵な時間になりますように..!!
協力・監修:Bside Label