今年の春から日韓をまたぐ新たなプロジェクトが発足した。音源流通を主力に国内外への配信実績を積んできたミュージック・デリバリー・ブランド、日本の《STANDO》と韓国の《POCLANOS》が業務提携を結び、韓国の新進気鋭のアーティストたちを楽曲配信を通じて日本国内に発信していく。
現在の韓国の音楽市場では、GenieやMelonをはじめとする国内サービスが主流だったこれまでから、近年のApple Musicユーザーの増加や昨年春にSpotifyが韓国進出したトピックなど海外サービスの台頭も見られ、知名度や経歴に関係なく、韓国のアーティストたちに活動の幅を広げるチャンスがより多く与えられる環境になっている。そのような中で両社は今、このプロジェクト、そして韓国音楽市場に対して何を思うのだろうか。
BUZZYROOTSでは、日韓のプロジェクト担当スタッフへメール・インタビューを敢行。各社の事業から業務提携に至った経緯、そして最後に楽曲配信や今回のプロジェクトといったムーブメントによる、韓国のインディペンデント・ミュージシャンと韓国音楽市場への可能性についても訊いた。
「ブランドxブランド」次元のコラボレーションーーインディペンデント・ミュージシャンと共に
ーーまずは、各社ご紹介をお願いいたします。
STANDO: 音楽配信から楽曲制作、プロモーション、マーケティング、ライブ制作、マーチャンダイズ、著作権課管理や音楽スタジオの運営まで行っています。インディペンデント作品が世界へヒットしていくことを目標として、クォリティーを重視した支援、サービスを提供しています。
POCLANOS: 主にインディーズミュージックの配信業務を行っている会社で、多くのインディペンデントミュージシャンや制作会社と共に活動しているので、彼らの需要や必要とする様々なサービスについてたくさん悩んできました。 配信に必要なプロモーションから公演、制作など、あらゆる方法で必要なサービスを彼らに提供しています。


ーー業務提携をすることになった経緯についてお聞かせください。
STANDO: POCLANOSのアーティストに興味があったのでご連絡したところ、業務提携のご提案をいただいたんです。
POCLANOS: 弊社から配信しているミュージシャンたちは、日本の音楽市場にとても関心を持っています。 ライブ公演、アルバム販売からオンライン・バイラルまで、音源を配信する以外のルートで日本のリスナーたちとコミュニケーションをしたいと考えているミュージシャンたちのために、何かできることがないか悩んできました。 日本を含め、ワールドワイドに配信をしていましたが、日本の音楽市場の知識に関してはまだ浅いため、ミュージシャンたちが望む形で積極的なプロモーションを行うことが難しかったんです。STANDOが弊社のアーティストに興味を持ってくださったことで、それをきっかけにより多くのミュージシャンたちに機会を与えられると思い「ブランドxブランド」次元のコラボレーションを提案させていただきました。
「リスナーにより多くの情報を提供することで、ファンを広げていく」ーーPOCLANOSのビジョンとは
ーー日本のメディアで紹介するのは初となると思いますので、POCLANOSの事業などお聞きしたいと思います。日々多くのアーティストの作品を配信されていますが、アーティストは普段どのように発掘しているのでしょうか?
POCLANOS: 弊社のスタッフ全員が韓国のカルチャーシーンの流れに非常に敏感です。 SNS、SoundCloud、YouTube、ウェブの記事などを通じ、常に新しい音楽やアーティストにアンテナを立てています。コロナ禍になる前にはライブに行って出会うこともありましたし、プレイリストをきっかけに偶然知ることもあります。また、原石と呼べるアーティストをスタッフが発掘したり、逆にアーティスト側からメールで音源を送ってくれて配信までに至る場合もあります。音源を送ってくれるミュージシャンの方々には本当に感謝しています。POCLANOSのメールの受信フォルダはいつもフレッシュなアーティストからの問い合わせでいっぱいなので、とても嬉しく思っています!
ーー昨年から今年にかけて、ウェブサイトを一新したことや、音楽フェスティバルの初開催、またバイナルリリース・プロジェクトの展開など新たな試みを多く行われましたが、その経緯をお聞きしたいです。
POCLANOS: 単純に音源を配信するだけなら簡単ですが、良い音楽をより多くの人たちに聴かせることが私たちの目標なので、手段を多角化することで新しい挑戦をしています。コンテンツ製作会社、イベント企画会社に比べると慣れてないことも多いですが、私たちが作っていく小規模のイベントやプロジェクトがミュージシャンたちに大きなターニングポイントになったり、リスナーたちにもっと近づく機会になることもあります。 対外的には「配信会社」ではありますが、実際に展開していることはとても多角的で、先述のようなことが背景にあります。STANDOとのコラボレーションも同じような思考から始めたので、今後もこのようなムーブメントは続けていきたいですね。


ーー新しくなったウェブサイトでは、どんな点にこだわっていますか?
POCLANOS: リスナーが良い音楽を発掘することが出来るように作りました。こだわりは、音源を1分間無料で試聴できる機能です。弊社のホームページでは、どんなアルバムでも1分間無料で聴くことができます。会員登録やログインは一切必要ありません。 ホームページに訪れるほとんどの方は好きなミュージシャンや気になるアルバムの情報を得るためにホームページを訪問する方が多いです。 そこで、偶然に良いアルバムをいくつか発見できればもっと楽しいのではないかと思って、「自分で良い音楽に出会う機会」をリスナーにプレゼントしたいと思ったんです。おすすめしたいアルバムやミュージシャンについてはレビュー記事やインタビュー記事を掲載していたり、各アーティストの紹介ページでは彼らのSNSや紹介文を掲載しています。リスナーにより多くの情報を提供することで、もっとファンを広げられるように施策を組んでいます。最近オープンしたWEB SHOPでは、弊社が2022年から制作を始めたレコードやブランド公式マーチャンダイズも購入することができます。

ーーこれまでの韓国では国内のプラットフォームが主流であった中、昨年のSpotify Koreaのローンチ等、現在は海外プラットフォームも韓国市場で存在感を示しつつあります。国内外のプラットフォームへ流通を行っている会社として、インディペンデントで活動する韓国のアーティストたちにとって今後どのような影響・変化が、そして韓国市場に対してはどのような影響・変化があると考えますか?
POCLANOS: 音楽だけでなく、多くのものが個人化していく時代だと思います。企画から作られたアーティストではなく、様々な背景や出身、個性を持っていると、誰でもクリエイターになれる時代です。自分ひとりで全てを計画して世界観を作り上げるアーティストはもっと多くなると思います。国境のように物理的に制限されていた音楽シーンが、今は国境のないプラットフォーム上に広がってきているので、意欲や熱情、ポテンシャルを持っている多くのアーティストたちは本人がいる場所に関係なく、アーティストのコミュニティに参加することが出来るようになりました。自分自身で居場所を探して、成長しやすい時代が急速に近づいていると感じています。 但し、いくら全て自分で出来るようになったとしても一人ではやりきれないこともあります。金銭的なところや行政的な部分、知っておくべき権利などは誰かの助けが必要かもしれません。賢く全てを手に入れることができるミュージシャンは実際に多くないと思います。かえってそっちの方が当然のような気もします。彼らのためにもミュージシャンたちの友達のような立場で彼らを助けることができればと思っています。このようなムーブメントを通して、韓国のより多くのインディペンデントミュージシャンたちに良い刺激を与えることが出来ればと思っています。


The Keyword:POCLANOSのYoutubeチャンネルの中で、いくつかのキーワードから始まるアーティストのインタビュー企画
i PALETTE:韓国で大ヒットしたキャラクター「ポンポン ポロロ」の制作会社「iconix」が、POCLANOSの音源を新人イラスト作家たちの作品に活用するコラボ・プロジェクト「i PALETTE」を始動、8月から毎週公開中。
「お互いの音楽や世界感が広がることはアーティストにとっても良い経験」ーーSTANDOのビジョンとは
ーー続いてSTANDOの事業などお伺いしたいと思います。レーベルを発足した経緯についてお聞かせください。
STANDO: 弊社は長年に渡って音楽配信業務を行ってきましたが、変化し続ける時代に合わせて、配信ブランドとしてSTANDOを発足しました。音楽配信に限らず、楽曲制作やプロモーション、ライブ制作、マーチャンダイズ、著作権管理や音楽スタジオの運営まで、今までのノウハウを最大限に生かしたサービスを提供しています。

ーーレーベル発足の初期から韓国のインディペンデント・アーティストの楽曲を配信されていますが、国内外アーティストの流通経験を持つ会社として、彼らにどのような可能性を日本の音楽市場で感じていらっしゃいますか?
STANDO: 今、K-POPは日本だけでなく全世界で人気がありますが、これからはK-INDIEシーンももっと注目されていくと思います。韓国のインディペンデント・ミュージックシーンにはハイ・クオリティでありながら、個性的で面白い音楽もたくさんあるので、メインストリームであるK-POPのファンもこのシーンにどんどん流れていくと思っています。
ーー現在、日韓コラボを積極的に展開されていますが、コラボ企画はどのように進んでいくのでしょうか?
STANDO: アーティスト側の提案から進んでいったり、スタッフ側から企画して提案することもよくあります。一方的に進めることはなく、お互い十分にコミュニケーションを取りながら制作していくことで面白いものが生まれる気がします。
ーー日韓コラボ企画に参加した日本のアーティスト、そして彼らのファンからはどのような反響がありましたか?
STANDO: 日本も韓国も、シーンの大きさやそこに関わっている人たちは限られているので、予想外のコラボというよりは、想像がつくようなアーティスト同士の場合が多いですが、国境を越えたコラボとなると、お互いのファンは相手のアーティストの存在を知らないこともあるので、ファン層が広がるのが嬉しいですね。お互いの音楽や世界感が広がることはアーティストにとっても良い経験になると思います。
「日本市場に対する多くの関心や愛情を実際の音楽活動に繋げたい」
ーー今後、日本でどのようなアーティストを配信していく予定でしょうか?
STANDO: 日本でK-POPはアイドルの音楽というイメージが大きいかと思いますが、POCLANOSから配信されるミュージシャンたちは韓国の若い世代のカルチャーをリアルに表現している方が多いと思っています。そのようなリアルでハイクオリティな音楽をこれからも紹介していきたいと思っています。
POCLANOS: 日本活動を考えているミュージシャンたちを紹介していきたいと思っています。意欲があればやがてパフォーマンスにも繋がっていくと思うので、日本市場に熱意を持って日本のリスナーとコミュニケーションがしたい、そんなミュージシャンたちを中心に紹介していきます。 ジャンルでいうと弊社で最も多いロックやR&Bのミュージシャン中心になると思いますが、もちろんフォークやエレクトリックも紹介していく予定です。


ーーこの業務提携に期待することは何でしょう?
STANDO: 韓国のグッドミュージックが日本でもっと多くの人たちに知られる機会になればと思っています。目まぐるしく変化していく音楽業界ですが、未来を見据えて常に新しい挑戦をしていきたいと思っています。そういった意味でこのコラボレーションにポテンシャルを大きく感じているので、今後が楽しみです!
POCLANOS: 日本市場に対する多くの関心や愛情を実際の音楽活動に繋げることが出来ればと思っています。 本人のポテンシャルを今回の業務提携で見つけることができれば一番良いのではないかなと思います。 国境や言語を越え、音楽を通じてより多くのリスナーたちと一緒に呼吸出来るよう、その架け橋の役割を果たすことができれば嬉しいです。
ーー最後に、今後の展望についてお聞かせください。
STANDO: グローバル化が進み、インディペンデント作品が世界へとヒットしやすい時代になりました。誰でもコンテンツが作れて公開できる時代だからこそ、アーティストや楽曲ごとに適切なアプローチが必要になると思います。クォリティーを重視したサポートや、サービスの提供をしていくことでより多くの人との繋がりを感じることが出来ればと思っています。
POCLANOS: 引き続き良いアーティストを発掘し、彼らと協力してより多くのリスナーに音楽を届けるというミッションはいつまでも変わらないと思います。 今まではその方法がアルバム配信に限られていましたが、これからはそれを超えていくと思います。 正解があるわけではないですが、アーティストたちが長く創作活動をすることができるように、彼らの権利を守り、活発に活動できる方法を探すために奮闘しています。 大きなレーベルではなくても、本人の方向性を提示することができ、リスナーたちに繋がる道へ導いてあげたいです。