新進気鋭の韓国ミュージックを国内に紹介するレーベル<Bside>。韓国音楽シーンを盛り上げているアーティストの既発曲からセレクトし、バイナルカットするプロジェクト「Bside K-Indies Series」の第二弾が3月25日にリリースされた。今回リリースされるアーティストはThe Black Skirts、SURL、OurRの3アーティスト。
BUZZY ROOTSでは、順次アーティストへのインタビューを独占公開。
第一弾アーティストは、韓国のインディーズバンドThe Black Skirts。韓国では「검정치마(コムジョンチマ)」と呼ばれる同バンドは、韓国ソウル出身、ニュージャージー育ちのJo Hyu-il(ジョ・ヒュイル/조휴일)氏のソロ・プロジェクトである。韓国歌謡と長年過ごしたアメリカで培ったポップなサウンドが織りなす挑戦的かつどこか馴染みやすい曲調、そして歌詞に込められたメッセージ性が母国でも人気だ。
2010年にデビューし、その年の韓国大衆音楽賞で最優秀モダンロックアルバム賞を受賞、その後リリースされたアルバム『Don’t You Worry Baby(I’m Only Swimming)』(2011)、『Team Baby』(2017)の評価も高く、アジアの音楽シーンでも不動の人気を誇っている。2020年2月には、アルバム『THIRSTY』が韓国大衆音楽賞で最優秀モダンロックアルバム賞を受賞している。
今回、「黒いスカート」という一風変わったバンド名に潜む彼のルーツと、レコードにまつわるエピソードについて語ってもらった。
ルーツはアメリカのパンクバンド
ーバンド名「The Black Skirts」の由来を教えていただけますか?
特に意味はないんです。 初めに名前をつけるとき、なんとなく危険で中性的でかっこいいパンクバンドの名前みたいだと思っていましたが、いまだに多くの人々が変わっていると思ってるみたいです。 僕は嫌いじゃないですよ。
ーパンクがもともとお好きだったのでしょうか?アメリカのニュージャージー州で育ったと聞きましたが、どんなアーティストや音楽に影響を受けましたか?
一番最初に好きだったバンドはThe Smashing Pumpkinsです。「Bullet with butterfly wings」(The Smashing Pumpkinsの楽曲)のMVを見て初めてギターを弾いてみたいと思ったんです。
シアトルのグランジバンドやニューメタルもたくさん聴いて、最終的にはパンク音楽に傾倒していました。高校に通っている間はRancidというパンクバンドの曲を一番よく聴いてましたよ。 そのほかにもEpitaph RecordsやFat Wreck Chordsといったカリフォルニアのパンクレーベルの音楽が好きで。スカもたくさん聞きました。
一生モヒカン刈りで、パンクロッカーとしての人生を全うするだろうと思ってたのですが、大学に入ってアメリカのインディ・ロックバンド Built to Spill を発見し、無理に音を歪ませなくとも曲そのものに心地よさを感じている自分に気付いたんです。名前をあげるとすれば、Built to Spill、Nada Surf、Wilco、Weezer、Rancidがソングライターとしておそらく最も大きな影響を受けたバンドですね。
ーアメリカのバンドの楽曲を聴き込まれてきたのですね。音楽制作を自分で始めたのはいつ頃からですか?
高校の時からパンクバンドを続けてきて作曲もしていたのですが、その頃の作品は曲というよりはノイズのようなものでした。真剣に曲を書き始めたのは大学時代からです。初めて作った曲は覚えていないのですが、発売された曲の中で一番最初に作ったのはファーストアルバム 『201 (Special Edition) 』にも収録されている「fling; fig from france」という曲です。2001年度の曲ですね。
ーThe Black Skirtsと言えば、ドラマ「また!?オ・ヘヨン」のOSTが韓国で話題になりました。OST制作のプロセスは、通常の音楽を制作する時とどのような違いがありますか?
OSTは The Black Skirts の作品とは別ものだと考えて制作をしています。 締め切りが非常にタイトで、制作に十分な時間がとれないんです。「또! 오해영 (また!?オ・ヘヨン) 」については時間があまりにも足りず、「明日の朝、間に合いませんでしたって素直に謝らなきゃ・・・」と頭で考えつつ、どういうわけかその日の夜に完成させた記憶があります。
ー2020年2月、韓国大衆音楽賞でアルバム『THIRSTY』が “最優秀モダンロック賞” を受賞しましたね。2度目の受賞、今の気分はいかがですか?
正直、受賞したこと自体にあまり興味はありません。『THIRSTY』はすでに多くのリスナーから愛されている作品なので、それだけで十分嬉しいです。
音盤は懐かしさを想起させる特別な存在
ー「Hollywood」「In my city of Seoul」の2曲が日本で7インチレコードとして発売された率直な感想をお聞かせください。特に「Hollywood」は、フィジカル音源がもともと入手困難で大変貴重なため、今回のリリースで予約が殺到していると聞きました。
韓国では、レコードを発売してほしいという声をよく聞くのですが、レコードは私にはなじみのない媒体だと言って、長い間後回しにしていました。まさか初レコードを日本で発売することになるなんて、思いもよりませんでした。今回、とりわけレコード発売を期待していた理由は、「In my city of Seoul」がThe Black Skirtsの曲の中で最もレコードにふさわしいと考えているからです。曲のアレンジや歌い方、そしてミュージックビデオまで、古風で懐かしい世界観を表現するのに集中していただけに、音源もレコードで聞くと私がもっとも求めていたものが伝わってくる気がします。おっしゃる通り、「Hollywood」は2,000枚しか生産しなかったので、おそらくThe Black Skirtsの曲の中で最も入手困難なフィジカル音源です。私ですら持ってないんですよ。
ー普段からレコードで音楽は聞きますか?
私はレコードに馴染みがないのですがCDを買う習慣はあって、中学時代以来、とにかくたくさんCDを買っています。数千枚は買った気がするのですが、私はものに愛着がない最悪のコレクターなので、引っ越しをしている間に失くしたり、友人に貸したままだったりします。
レコードとは関係のないエピソードですが、最近東京に遊びに行った時に、日本にはまだCDショップがあり、さらには中古CDが販売されているという事実に驚きました。渋谷でたまたま入った店に中古CDが置いてあり、それ自体信じられなかったのですが、さらにはなかなか入手できなかった大好きなバンドのCDがあるのを見て、すごく興奮しました。それも100円コーナーにですよ。まるでタイムマシンに乗って、青春時代に戻ったかのような気分になり、ここ何年かで1番うっとりした瞬間でした。その日は幸せすぎて日記も書き、冗談抜きで少し涙も出ました。それから数日間、渋谷を狂ったように歩き回りながら、毎日CDを買った記憶があります。特にChris bellの「I Am The Cosmos」を見つけた時は、本当に幸せでした。それからというもの、CDを再び集め始めるようになりましたね。
ーこれは嬉しいエピソードです。日本にはよくいらっしゃるのですか?
僕は飛行機に乗ることが嫌なので近いところしか海外旅行は行けないのですが、日本は距離も近くて食べ物も口に合うのでよく行きます。小豆が入った伝統的なたい焼きが大好きなのに、売っているところがあまりなくて残念です。 なぜかインターネットにも情報がないんです...!東京でおいしいタイ焼き屋さんがあれば、今後教えていただけますか?プリーズ!
ーA面「Hollywood」の魅力を教えてください。
この曲はAppleの無料音楽ソフトのGarage Bandで作成したんです。私の最初のエレクトロニック音楽だったので、なけなしの知識と最小限の機材で良い音楽を作るのが目標でした。だからこそ、誇らしく思っています。
ーB面「In My City of Seoul」の魅力を教えてください。
ソウルに住んでいる人は多いですが、故郷がソウルで両親の故郷もソウルだという人は多くありません。私たちは、帰る田舎のない人間なんです。だから、ソウルの地に対する恋しさを歌った曲もあまりないでしょう。この曲は、故郷に対する懐かしさを思い起こして欲しくて作った曲なんです。Neil Diamondような70年代のポップミュージックを考えながら作ったのですが、ダサいんですって。そんなことないのに。
ー今回、レコードを手にする日本のファンに向けて、一言メッセージをお願いします!
これからも新しいアルバムとライブをぜひ、楽しみにしていてくださいね。
協力・監修:Bside Label