2022年8月5日〜7日、松島(ソンド)タルピッ祭り公園で開催された「仁川ペンタポートロックフェスティバル 2022」の現場レポートをお届け。
〈Bside〉が展開している7インチレコードリリース企画《Bside K-Indies Series B333》に参加したアーティスト9組をレポートした第一弾に引き続き、第二弾となる今回は全体に目を向け、筆者の独断と偏見で特に印象に残ったアーティストをピックアップ。よりリアルな現場感をレポートする。
Crying Nut
1日目のサブヘッドライナーを務めたCrying Nut(クライングナット)。彼らといえば、韓国インディーズ界の草創期からシーン全体を引っ張ってきた伝説的存在とも言えるバンドだ。パンクで疾走感のある曲に、コールアンドレスポンスが組み込まれた曲を数多く保有する彼らは、まさにフェスに欠かせない存在と言える。韓国人なら誰もが知る「Speed Up Losers (말달리자)」から「Oh! What a Shiny Night (밤이 깊었네)」、「Luxembourg」、「Let’s Do Better Next Time (다음에 잘하자)」などで観客の興奮を煽り、フロアでは何度も大きなサークルができてはモッシュが起こった。不思議なことに、彼らの曲を知らない人も曲が終わる頃には一緒にコールアンドレスポンスに参加している。リピートの多い曲構成に加え、モニターにはポイントとなる歌詞を表示し、新規のファンも巻き込んでいく環境が整っているためだ。今回のステージでも会場全体を虜にさせる勢いでパワフルなパフォーマンスを繰り広げ、彼らも観客も全てを出し切ったステージとなった。
JANNABI
バックバンドを引き連れ華やかな舞台を繰り広げたJANNABI(チャンナビ)。ギターのキム・ドヒョンも除隊後初めてステージに登場した。人気ロックナンバーの「Baby I Need You」や「Good Boy Twist」から、「Summer」や「For Lovers Who Hesitate」などのバラードまで次々と披露。モニターには歌詞も映し出され、ファンの合唱を誘った。2014年に初めてペンタポートのステージに立って以降、8年をかけメインステージに上り詰めたJANNABI。「一番小さなステージから始まり、やっとここの大きなステージまで来た。次が誰なのかは分からないが、僕たちがこのペンタポートの主人公だ」との発言からは彼らの熱い情熱や希望、これからの抱負が感じられた。会場の熱気と雰囲気は、最初から最後まで最高潮。高い演奏力とパフォーマンスで圧巻の舞台を見せつけ、ヘッドライナーとして舞台に立つことも射程圏内に収めた。
HWANHO
最終日となる3日目の “Incheon Airport STAGE”でトップバッターを務めたのは、2018年にデビューしたばかりの新人バンドHWANHO(ファノ)。公開募集が行われた“PENTA SUPER ROOKIE”のトップ6に選ばれ、今回の出演に至った。デビューからの日は浅いものの、現在Mnetにて放送中の“GREAT SEOUL INVASION”の本戦に進出するなど実力は確か。精力的に公演活動も行い、人気を徐々に高めつつある今注目のバンドだ。HYUKOHを連想させるような、セクシーかつ軽くも深みのあるユ・ファンジュのボーカルと、真っ直ぐに突き抜けるようなギターサウンドでロックナンバーを次々と演奏。「Night travel」や「Dokkaebi(도깨비)」、人気曲「Taxi」など、パワフルなライブパフォーマンスでフェスの盛り上がりに勢いをつけた。
縫製人間
今フェスではルーキーステージ的な存在の“Incheon Airport STAGE”で最も異彩を放ったバンドがいた。それが、この縫製人間(ボンジェインガン)だ。今年結成されたばかりのバンドではあるが、スルタン・オブ・ザ・ディスコのチ・ユンヘ(Vo/Ba)、 HYUKOHのイム・ヒョンジェ(Gt)、元チャンギハと顔たちのチョン・イルジュン(Dr)という、韓国インディーズ界を知る人ならまさに夢のようなバンドメンバーだ。これまでに曲のリリースはないものの、すでに認知度は高い。顔を白と黒に塗ったコープス・ペイントに修道士のような衣装で登場した3人は、ハードロックやサイケデリックロックのような激しいナンバーから、見た目に似合わず(?)ポップささえ感じられるナンバーまで曲を次々と披露。時折メインステージから聴こえてくるサウンドに耳を傾けるような冗談も交えつつ、圧巻の演奏力と安定感で集まった数多くのファンと関係者を沸かせた。
紫雨林
今フェスの大トリを飾った紫雨林(ジャウリム)は今年結成25周年を迎え、精力的に活動しながらいまだにファンを増やし続けている。開始予定時刻を大幅に過ぎており、雨も降っていたが多くの人が彼女らの登場を待ち続けた。そしていざ登場すると、会場の雰囲気は一気に最高潮に。圧巻の声量と歌唱力、カリスマ性で集まった全ての人の心を射抜いた。往年の人気曲「Magic Carpet Ride」や「Song of Ha Ha Ha」、「STAY WITH ME」などがセットリストに並んだが、どの曲でもファンの合唱が途切れることはなかった。集まった観客は残った力を全て使い切るかのように歌い、飛び跳ね、まさに会場が一体となるのが感じられた。次第に雨も止み、涼しい風が吹くなかで迎えたアンコールでは「Twenty-five, twenty-one (스물다섯, 스물하나)」を披露。観客はスマホのライトを使って会場を照らしたが、天候やフェスが終わってしまう惜しさまでもが相まり、心に染みる締めくくりとなった。
キムチマリグクス
今回のフェスを語る上で欠かせないのが、なんと言ってもこの「キムチマリグクス(キムチ素麺)」だろう。出店した数多くの飲食店の中でも、一際行列が目立った。日本ではあまり馴染みがないかも知れないが、キンキンに冷えたスープに、キムチと素麺、海苔というなんともシンプルなメンバー構成の定番家庭料理だ。最長2時間待ちとの噂も飛び交い、そこまでして食べる必要があるのかと思いがちだが、実際に食べてみると納得。汗で水分と塩分が流れてしまった身体に冷たくしょっぱいスープが染み渡り、夏バテぎみで食欲が無かった口にもどんどんと入っていく。紫雨林のボーカル、キム・ユナがMC中に「真のヘッドライナーはキムチマリグクスだ(진정한 헤드라이너는 김말국)」と発言するなど、今回出演したどのアーティストよりも話題に上がったと言っても過言ではないかもしれない。
第三弾では、日本と韓国のフェスの楽しみ方の違いや、フェスで使われる韓国語を紹介する記事を公開の予定。今後韓国でフェスに参加する予定がある人は、ぜひ参考にしてほしい。
文/ SENA(Bside)