韓国の人気インディロックバンド・Bye Bye Badmanのベーシストであり、ソロアーティストとしても活動する Luli Lee(イ・ルリ/이루리)が、2ndフルアルバム『The Waters』をリリースした。1st『Fade Away Like a Dream』(2022年)以来、約4年ぶりのフルアルバムとなる本作は、息苦しい現実を離れ、水の中に「安らぎと自由」を求めたセルフプロデュース作だ。自らを「陸に間違って生まれた人魚」になぞらえて表現したという本作の背景には、どんな心境の変化があったのか。
BUZZY ROOTS では、約6年ぶりのインタビュー。結婚や Bye Bye Badman の活動再開を経て、音楽を「夢」から「一つの仕事」として肯定的に捉えられるようになったという彼女。過度な欲を削ぎ落とし、全工程を自ら手がけながら自然体で制作に臨んだ理由、そして作品に込めた想いを聞いた。
Interview & Text:AKARI(BUZZY ROOTS)
Photo:Minsoo Yoon
音楽を「夢」から「仕事」へ。結婚とBye Bye Badman再始動がもたらした変化
―― お久しぶりです! BUZZY ROOTS では2020年、Bside の7インチレコード発売企画『Ashby Road / Dive』のリリースの際にもインタビューさせていただきました。あれから6年が経ちましたが、ご自身の中での変化や、最近のことを教えていただけますか?
Luli Lee:こんにちは。インタビューの機会をくださってありがとうございます。この6年間で、私にはいろんな変化がありました。まず、プライベートでは結婚をしたことで、精神的にも少し強くなった気がします。
もともとの性格的に、私はスター性とは少し距離のある人間だと思っています。だから、子どもの頃に夢見ていたミュージシャンの人生と、実際にミュージシャンとして生きていく中で向き合うことになった現実が、自分の性格とはあまり合っていないように感じて、音楽をやりながら少し苦しい瞬間もありました。
でも今は自分が少し強くなったこともあって、音楽を単に「子どもの頃の夢」としてだけじゃなくて、一つの「仕事」として考えられるようになった気がします。音楽をする人生についていろんな角度から考えられるようになり、今になってようやく音楽がとても楽しく、ありがたいものだと感じています。
―― ソロの話に入る前に、バンドのことも聞かせてください。2025年に、所属バンドである Bye Bye Badman が約7年ぶりに活動を再開し、大きな話題になりました。同年4月にアルバム『BAD TIMING』をリリースして以降、大きなフェスへの出演やライブが続いていますね。バンド活動が再開して、今の状況を率直にどうお感じになっていますか?
Luli Lee:実は、私が強くなれたのは結婚だけじゃなくて、Bye Bye Badman の活動再開も大きかったと思います。久しぶりに幼い頃からの友人と一緒に新しいステージに立つ中で、10代の頃に音楽に対して抱いていた憧れや夢を改めてはっきりと思い出すようになりました。
振り返ってみると、音楽がくれるいろんな楽しさの中でも、私はバンドをやることに一番憧れていたし、そこに一番大きな喜びを感じていたんだと思います。長い音楽活動の中でしばらく忘れていたその気持ちを、また見つけたような感覚があります。
―― 今年1月に公開された〈POCLANOS〉のインタビューでは「ソロで計画しているものは特にない」「当分はバンドの公演に集中する」と話されていました。それから8ヶ月で、今回のフルアルバムのリリースです。何かきっかけがあったのでしょうか?
Luli Lee:今回のソロアルバムは、実はバンドの公演に集中しようと思ったことから生まれたものなんです。
Bye Bye Badman のメンバーはみんなソロ活動もしているのですが、今年の2〜3月頃にみんなで一緒にソロで公演をやってみようという話が出ました。それなら、その公演の時期に合わせて、それぞれソロアルバムを出したら意味があるんじゃないかと思ったんです。
もともと個人的に曲を作ってはいたのですが、リリースすることを目標に作り始めたわけではありませんでした。ただ息をするように、日記を書くようにしていた作業だったので、「いつか機会があればリリースしよう」くらいの気持ちでゆっくり作っていたのですが、バンドの仲間たちと再び「一緒に音楽をやる」という気持ちになったことで、またアルバムを一枚出してしまいました。

息苦しい現実を離れ、水の中へ。「間違って陸に生まれた人魚」が求めた安らぎと自由
―― ここからは新譜について伺います。2枚目のフルアルバム『The Waters』が9月1日にリリースされました。おめでとうございます! アルバムの紹介と、この作品を通して表現したかったことを、改めてお聞かせいただけますか? 「水」というモチーフを選んだ理由も伺いたいです。
Luli Lee:お祝いの言葉をありがとうございます。今回のアルバムは、私がこれまでプロデュースしてきたすべてのアルバムの中で、もっとも完成度の高いものになったと思います。個人的にも、思っていた以上に満足度の高いアルバムです。すごく軽やかで楽しい気持ちで作業できたので、するすると進んでいき、それもあって満足度が高くなったんだと思います。
もしかすると、音楽に対する欲がまったくない状態で作ったからかもしれません。あれこれ考えたり計算したりせず、ただ純粋に「子どもの頃に自分が好きだった音楽」ということだけを考えながら、素直な気持ちで作業しました。自分が一番慣れ親しんでいる楽器編成とサウンドを使い、「私って何が好きだったんだっけ?」と思い出しながら。
アルバムのテーマとして「水」を思い浮かべるようになったのは、私自身かなり長い間、現実の生活が息苦しかったからです。この「現実」という空間で息をするのが苦しいなら、私はもともとここに合わない生き物であり、別の場所でなら楽に息ができるんじゃないか。そんな想像をよくしていました。
そんな中、川沿いを運転しながらふと「このまま壁を越えて川に落ちたら、どんな気分なんだろう?」と何度も考えている自分に気づいたんです。そのイメージから生まれたのが1曲目の「Drive into the Waters」でした。そこから自然と、水は私にとって「安らぎと自由」を象徴するものになっていきました。
2曲目の「Ocean Dreams」では、目に見えるいちばん大きな水である海、その真ん中で自由に歌う存在を描きながら、自然と「人魚」というコンセプトが浮かびました。そうやって一つの思いつきが次の思いつきへとつながっていって、最終的には、この世界のどこにどんな姿で存在していても——大きな存在であっても、ごく小さな存在であっても——「水」という存在を通して自由を表現したい、というところまで広がっていきました。
水とは少し離れて見えるコンセプトの曲もいくつかあるんです。そこで、アルバム全体には「陸に間違って生まれて生きている人魚の物語」という、もう少し具体的なコンセプトを設けました。
―― 前作のEP『Brave New World』が「全部壊して新しく始めたい」という気持ちから生まれた作品だったとすると、今回のアルバムはご自身の中でどんな位置にありますか?
Luli Lee:『Brave New World』ではメタルっぽいサウンドを作ってみたかったんですが、当時はメタルのミックスについての理解がまだまだ足りませんでした。それもあって、リリースした後もその部分がかなり心残りだったんです。今回のアルバムを作りながらあのときの感覚を思い出して、「とにかく何か作ってみよう、挑戦してみよう」というより、「自分が好きなものだけに集中しよう」と、強く自分に言い聞かせました。
これまでの作品はどれも、音楽的な面でも人間的な面でも、自分を成長させてくれました。いろいろと苦労もありましたが、それでも音楽はほかのことに比べればわりとスムーズにいくほうです。「私って何が好きだったんだっけ?」と思い出しながら純粋に向き合えば向き合うほど、かえってうまくことが運ぶようです。ここで言う「純粋さ」は、ただ「自分が好きなもの」を考えることに近いと思います。「どんなミュージシャンになりたい」とか「どんなふうに見られたい」とか、他人の目を意識する前の段階の話です。
最近は、マーケティングやアートワークといった音楽以外の部分を自分で作っていくことにもまた違った楽しさを感じています。自分にとってまだまだ新しい領域なので、楽しい反面ちょっとしんどかったり、難しかったりしていますが。
―― プロデュース、作詞作曲、アレンジ、演奏、ボーカルからミキシング、その他リリースに関わる作業まで、すべてご自身でされています。その中での楽しみや、大変だったことはありましたか?
Luli Lee:楽しいのは、出来上がったものが思い描いていたイメージに近づいたときです。もちろん、想像どおりにならないことのほうが多いんですが、自分がどれだけたくさん想像したかが、完成したものへの満足度にも影響している気がします。
今回のアルバムは、バンド活動に弾みをつけたいという前向きな気持ちで作っていたので、音楽の要素からアートワーク、マーケティングまで、自分が思い描いていたイメージも程よく軽やかだったんだと思います。だから個人的な満足度も高いんじゃないかなと、ずっと考えています。さっきも話したように、欲が軽ければ軽いほど、幸せも増えるということですね。
それから、さっきお話ししたとおり、最近はマーケティングや音楽以外の要素にもすごく興味があります。今は Bye Bye Badman の広報やスケジュール関連の仕事も担当しているのですが、こういう事務的な仕事は一つひとつが新しい挑戦なんです。メールを一通送るたびに、「仕事としてはどういうやり方が適切なんだろう?」と悩みながら、一生懸命やっています。
音楽ひとつから、いろんな仕事が生まれていく。それが本当に面白いし、素敵なことだなと思います。
―― 『Brave New World』ではメタル寄りのラウドな方向に大きく振り切っていました。今作はそこからまた音が変わっています。今回のサウンド面でのこだわりを教えてください。
Luli Lee:『Brave New World』は、私にとって一つの挑戦でした。自分のプレイリストがすごくマニアックというわけではないのですが、メタルはけっこう聴くんです。2025年に一番好きだったアルバムも、Deftones(デフトーンズ)の『Private Music』でした。だから生きているうちに一度くらいは、こういうサウンドに挑戦してみたかったんです。ボーカリストとしても、演奏者としても。
ただ、好きなジャンルではあっても、そのサウンドでフルアルバムを出せるほど理解しているわけでもないし、うまくできるとも思っていません。そういうことってあるじゃないですか。才能があることと好きなことって、やっぱり違うんですよね。
だから今回のフルアルバムでは、自分が息をするように作れて、一番自信のあるサウンドを選びました。Bye Bye Badman の楽器編成を中心とした、モダンなロックミュージックです。
一番自信のあるサウンドだとは言っても、世の中には音楽をとことん突き詰めて勉強しているミュージシャンがたくさんいて、自分自身はそこまでディープに音楽をやっているミュージシャンではないと思っています。いろんなことを試すのは好きなのですが、私は「もういいや、ただ音楽を楽しもう」というほうに近いんです。
―― トラックリストは公演のセットリストを組むように構成する、と以前おっしゃっていました。今回はアルバム全体の流れをどのように考えて曲を並べたのでしょうか。
Luli Lee:1曲目「Drive Into the Waters」と10曲目「Reality Like a Dream」が、最初に作った2曲です。だからこの2曲は雰囲気が似ています。似たような雰囲気で、アルバムの始まりと締めくくりを飾れたらいいなと思いました。
1曲目と10曲目では、幕が下りたステージから流れてくるBGMのようなイメージを思い浮かべました。そして2曲目「Ocean Dreams」からは、セットリストを組むような感覚で考えました。「ここから本当の公演が始まる」と思いながら。

完璧さよりも「軽やかさ」を。絵本を作るように表現したビジュアルと全工程DIY
―― ビジュアル面にもこだわりがふんだんに詰まっていると感じました。水色にきらめくベース、ヘアスタイル、人魚のような衣装、頭から肩にかけて連なるビーズ、ネイル。隅々まで作り込まれているのが印象的です。撮影場所や衣装、スタイリングはどのように決めていったのでしょうか。
Luli Lee:もちろん、前作にも私のこだわりがたくさん詰まっているんですよ! あのときも自分が好きなコンセプトでスタイリングをして写真を撮ったのですが、その過程がすごく楽しかったんです。だから今回もそうしてみたいと思いました。
前作は自分が想像していたよりも、写真も映像もずっと格好よく仕上がったんです。「すごく完成度が高かった」と表現するのがいいと思います。もちろんその出来には100%以上満足していますが、精巧に作り込まれた完成度の高いものだけがいいとは限らない、とも思っています。少し削ぎ落として、どこか荒く見えるものにもそれなりの面白さを感じるほうなので、今回は、もう少し軽やかな気持ちで臨んでみました。
フルアルバムとなると、普通はもっと大事に構えて、たくさんのものを詰め込もうとするかもしれません。でも、さっき話したように、今回のアルバムには大きな欲を込めませんでした。私は、音楽をやることがただ自然なことであってほしいんです。だからこれからも少しずつ力を抜いていきたい。大きなスケールの作品を目指すよりも、長く続けていけるやり方で。極端な話、無人島に一人きりでも曲を作って、最後まで自分の手で仕上げられる。それくらい負担のない形がいいなと思っています。
話を戻すと、とにかく今回は「人魚」というコンセプトをイメージして、いろいろなアイテムを注文しました。コンセプトは「陸で間違って生きている人魚」です。ほどよい恐怖と好奇心を同時に感じるような表情を作ってみたかったんですが……モデルとして演技をするのは、少し難しかったですね。
自分の顔とベースが写って、そこに手書きの文字が入る。この形は活動初期から続けてきたものですごく気に入っているので、これからもずっと大切にしていきたいです。手作りの絵本のような感覚といいますか。今回のアルバムは、私が作った人魚の絵本です。「じゃじゃーん!」と皆さんにお見せできたらいいなと思っています。

―― 「Reality Like a Dream」というタイトルを見たとき、前作『Fade Away Like a Dream』を思い出しました。前作を意識して作られた曲だったりしますか。
Luli Lee:最初にアルバムを企画したときは、アルバムの仮タイトルを「Reality Like a Dream」と決めて、5曲ほどスケッチしました。前作『Fade Away Like a Dream』とタイトルをつなげることで、シリーズとして続いていく絵本のようにできたらいいなと思ったんです。
でも曲を書き進めるうちに、この絵本のタイトルは絶対に「水」でなければいけないと思うようになりました。それで「Reality Like a Dream」という名前のほうは、一番最初にスケッチした曲——今の10曲目に贈ることにしたんです。もともとその言葉から着想を得て書いた曲でもあったので。
実はその10曲目、もともとは「Fear」という名前をつけていたんです。「Reality Like a Dream」に変えてよかったと思いますか?
―― 前作との繋がりも感じられて、素敵なタイトルだと思います! リード曲「Digital Killer」は、タイトルからして水を連想させる他の曲とは少し毛色が異なり、ある意味とても現実的で際立って見えました。内容としては、比較によって自分の光が消えていく話で、国を問わず多くの若い人が共感するものだと思います。この曲で表現したかった思いをお聞かせください。
Luli Lee:はい、まさにおっしゃるとおりです。私にとって息苦しかった現実の世界が反映された、陸の上の生活を描いた曲です。少し付け加えると、「いっそ消えてしまったほうがいいのかな」と自分を否定して、「自分がいない世界のほうが、むしろ美しいだろう」と考える。そんな悲しくてほろ苦い考えをたくさん込めました。歌詞の内容とは裏腹に、曲自体は速いテンポで作っています。何も考えずに演奏できるくらい楽しくパワーコードを弾きながら、雰囲気があまり暗くなりすぎないようにしたかったんです。
一人で楽しく音楽を作る自由さを伝えたい
―― 今回のリリースに合わせた投稿を、すべて英語で、しかもご自身で作られていました。「韓国の音楽といえばK-POPに触れてきた人が多いと思うけれど、韓国にも最初から最後まで一人で作る音楽家がいると伝えたかった」と。この言葉の意図や、海外に向けて発信しようと思ったきっかけを教えてください。
Luli Lee:音楽市場がグローバル化して、今では自分の音楽も世界中どこへでも届くようになりました。本当に幸運なことだと思います。行ったこともない国で誰かが自分の曲を聴いてくれているというのは、とても不思議で、ありがたいことです。だからこそ、もう少し積極的にコミュニケーションを取るのが自然だと思いました。実際に海外のリスナーの方は確かに存在していて、一生懸命コメントを残してくださったりもしますから。
K-POPについて触れたのは、もしK-POPをきっかけに私を知った方がいたら、私の音楽やコンセプトが最初から誰かの手で企画されたものだと誤解するかもしれないと思ったからです。それで、自分のことを一度きちんと紹介しておきたかったんです。私の良さは、何か大それたところではなく、ただ一人で楽しく音楽を作っている自由な人間だという点にあると思っています。
―― 最後に、この記事を読んでくださった日本のファンの皆さんに一言メッセージをお願いします。
Luli Lee:こんにちは! 日本の音楽ファンの皆さん、はじめまして!きっと多くのミュージシャンが、日本の繊細で情熱的な音楽文化に大きな関心と憧れを抱いていると思います。私自身もその一人なので、こうしてインタビューを通じて皆さんにお会いできることを、本当にありがたく思っています。
そちらにも、私の音楽が居場所を見つけられる小さなスペースがあるでしょうか? 楽しんで聴いていただけたら嬉しいですし、これからもたくさん関心を寄せていただけたら幸いです。いつか必ず、日本で直接皆さんにお会いしたいです!

リリース情報
Luli Lee『The Waters』

Release Date:2026-9-1
Release Format:Streaming & Download
Label:Knight Airport
Track List:
01. Drive Into the Waters
02. Ocean Dreams
03. Savior
04. Digital Killer
05. I Hate Myself More Than You Hate Me
06. Our Dust
07. Please 88
08. If You Are the Moon
09. Siren’s Song
10. Reality Like a Dream
■ 配信リンク:Spotify
◼️ Luli Lee:Instagram
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